木材コーディネーター、そして木造コーディネーター | 造作材・注文材・無垢材なら昭和20年創業のクボデラ株式会社へ。
森と建築を一緒に考える 森と建築を一緒に考える
アトリエフルカワ一級建築士事務所 古川泰司
木材コーディネーター、そして木造コーディネーター

森と建築を一緒に考えるをテーマに今まで様々な角度からお話ししてきましたが、ではどうしたら森と建築を一緒に考えることが出来るのかについてもう一度考えてみたいと思います。具体的には「木材コーディネーター」、そして「木造コーディネーター」が必要だということです。

木造建築を作る場合に木材が必要なのは当たり前です。「木材が欲しい」とこちら側で声を上げる人がいる。そしたら、向こう側で「ここにあるよ」と答えてくれる人がいる。一人あたりの森林面積は決して大きくはないけれども、日本にはしっかりと森林が有り、先達たちが植えて育ててくれた森林資源としての貯金が日本の山にはある。あるわけなんだから、こっちで欲しいと言えば向こうにはあるはず、、、それなのに、現実はそのあるはずの物を手に入れるのにとても大きな苦労を強いられる。これはやっぱりおかしいですね。


(写真-1 日本には森林資源がたくさんあるはずなのに、、)

山側にも事情がある

まずは、何故そんなおかしなことになっているのか、今一度考えてみましょう。

建築の設計、あるいは施工をする人が木材を求めるのは材木屋さんです。材木屋さんが木材を求めるのは製材所か材木問屋さんです。材木問屋さんは製材所にもとめます。製材所は原木市場で丸太を買います。時々、山主さんから直接丸太を買うこともあります。

建築に使う木材が取れる丸太は、植林してから最短で30年、一般的には50年以上の生育期間が必要です。欲しいといっても50年前に植えていなければ手に入らないのが木材なのです。ですから、まずは山で使い手が現れるのをじっと待っている木があるというところからスタートとなります。山主は売れるかどうか誰も約束してくれていない木を育てているのです。未来への責任を果たしていると言っても良いかもしれません。まずはそうした山側の事情について知っておく必要があります。そして、50年で切るならば自分の山を50等分にして順番に切っていけば毎年製材所に渡す丸太は安定的につくれます。しかし、問題はその量です。あたりまえですがこの量はすぐには増やせません。これが木材生産と木材活用の悩みどころです。

ですから、我々が木材を欲しいと言っても、その量が多ければ「無理です」という返事も山から返ってくる場合もあるのです。「無理です」と言わせない、山側の事情を踏まえた木材
のコーディネートが必要になってくるのです。


(写真-2 山側にも事情がある)

製材所にも事情がある

また、山には木があってもそれを切り出してくる「木こり」、「素材生産者」といわれますが、彼らがいなければ山にある木も切ることが出来ない。つまり、あたり前なことですが、木こりがいなければ、山に木はあっても使えません。木こりは大変危険な仕事で就業中の死亡率は高く重労働であるためになり手が少ない、あるいはすぐに辞めてしまうという問題もあります。そういう事情についても理解している必要があります。

次は製材所の生産能力があります。製材所の生産能力は製材機によります。製材機をフル稼働した分しか生産できません。限界があるのです。それ以上の要望が来ても「無理です」ということになる。さらには、乾燥施設。乾燥施設の能力にも限界がある。また、木材の乾燥には、しっかりとした乾燥をするための最低限の時間が必要です。ここでも理解しておかなくてはいけない生産能力の限界があるわけです。


(写真-3 製材所にも事情がある)

森と建築をつなぐ必要がある

ですから、山にいくら充分に育った木があっても、それを欲しいからと言ってすぐに手配出来るとは限らないのです。生産体制の事情も把握した木材の手配が必要になります。
とくに木材利用量の多い非住宅、あるいは生産量の限られている地域の木材を使う場合には、この問題は顕著に表れます。さらには、公共施設、あるいはそれに準じて年度内に完成をする必要がある、保育園や小学校といった施設建築は、手続き上、施工業者決定が9月を過ぎることが多く、そこから木材調達をする必要が出てくる。つまり、量のほかに調達時間の制約が出てくるのです。

山林のどこにどんな木があって、それを伐採して製材所まで運ぶのにどのくらいの時間がかかるのか?山奥であれば注文が来てから搬出用の道を作っていては間に合いませんね。お付き合いする山林の資源情報、どのくらいの木がどれだけ使えるのか?その情報がなくてはなりません。情報と情報をつなぎ合わせる人が必要なのです。

山林伐採から製材までの生産の情報と、山林自体の資源情報、これらのバランスよく見極めながら木材を使う必要があるのですが、これがなかなか難しいのが現状です。この川上から、川中、川下にかけての全体をつなぐ人がいないのです。いるとすれば、山林所有者とつながっている製材所とか、材木屋さんまではあるかもしれませんが、工務店、ゼネコン、設計事務所で川上側を配慮している人がいるかというと、残念ながら少ないと言わざるをえません。山と町をつなぐコーディネーターである「木材コーディネーター」が必要なのです。

この時に、もうひとつ重要なのは木材や木構造を理解している設計者です。山側の事情を知り一緒につくる配慮ができる木造建築の設計者が大切なのです。

現在、非住宅の木造建築が大ブームになっていますが、前回に書いたような木造建築を設計する上での基本的なことを理解しないで設計をしているケースが少なくないと聞きます。そうするとどうなるかというと、使用する木材の断面形状や長さが山側の現状から大きく逸脱してしまうことになる。そうなれば、調達にコストがかかり、木造建築が高いという話になってくる。
もしかしたら、木造建築が高いと言われているのは、設計がうまくいっていないせいなのではないでしょうか?

山側を見据えた、木材の生産全体に配慮した設計が必要なのです。すべての設計者にそれを求めたいところですが、そこの配慮を専門に担う設計者がいても良いかもしれません。

木材の調達を手がける「木材コーディネーター」が必要なのはすでに書いてきたとおりです。ただ、「木材コーディネーター」は設計者が描いた図面をもとに木材の調達を円滑化を図る人です。そこで、もう一歩、建築のことがわかる「木造コーディネーター」の存在が必要になっているのではないかと考えています。


(写真-4 森と建築をつなぐ必要がある)

木造コーディネーターの必要性

その大切さがわかる私が手掛けた二つの仕事を紹介しましょう。どちらもデザイン監修という形で関わらせていただいた案件です。やらせていただいたことは、設計途中の案件を木造に適した設計にしていくという作業です。

とある地方都市の公共施設で屋外ステージの設計の案件がありました。基本設計を受注した設計者が描いてきたパースについて意見を求められ、拝見したところ木造として構造計画が成立していなかった。そこで、私が間に立ち、基本設計の見直し、構造計画の見直しをし、その地域の木材を活用できる設計に軌道修正することが出来ました。

とある材木商さんの本社屋移転に伴い事務所棟と展示棟については木造で実現したいとそちらの会社では考えていました。しかし、設計施工で頼んでいたゼネコンとの打ち合わせを重ねても、なかなか話がかみ合わないということで私に相談が来た案件があります。
最初に、ゼネコンの設計部長が基本設計完了のプランをみせてくれましたが、このプランが木造としては大変無理のある設計だったのです。詳しくは書きませんが、構造計画に大きな問題がたくさんありましたので、それを指摘させていただき、私が間に立ち構造設計者と内容を検討して木造として無理なく実現する構造計画を作りました。

どちらも、山側の事情に配慮した木材を使った構造計画を組み立てることが必要だった案件です。設計のプロセスでいえば、基本設計の時に検討されることですが、どちらも私の知見を活かすことができた案件となりました。

森と建築を一緒に考えるとはどういうことなのか?森林についての知識も必要ですし、森林の育林や木材の性質や品質・生産についての知識も必要です。そしてそれを踏まえた木材の特性をフルに生かした設計をすること。それこそが、森と建築を一緒に考える事になるのです。


(写真-5 森と建築を一緒に考えて次の世代の森を育てる)

執筆者のご紹介

古川 泰司
古川 泰司
武蔵野美術大学建築学科卒業後、'88年筑波大学院芸術学系デザイン専攻建築コース修了。建築事務所や工務店に勤務後、'98年アトリエフルカワ一級建築士事務所設立。林業、製材、職人をつないだ、地域の木を生かした建物の設計を行っています。最近では、住宅医の資格を活かしながら、空き家活用で地域の空間資源再生を通した地域再生やコミュニティづくりにも取り組んでいます。 https://a-furukawa.com/

略歴

  • 1963年5月 新潟県生まれ
  • 1981年3月 新潟県立高田高校卒業
  • 1985年3月 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業
  • 1988年3月 筑波大学院芸術学系デザイン専攻建築コース修了
  • 1988年4月 株式会社パルフィ総合建築計画入社
  • 1990年3月 有限会社長谷川敬アトリエ入所
  • 1991年12月 一級建築士資格取得(国土交通大臣239555号)
  • 1995年8月 シルクロードとチベットへの旅行(8月〜10月)
  • 1995年11月 株式会社内田工務店入社
  • 1997年11月 株式会社内田工務店退社 事務所設立の準備を始める
  • 1998年5月 アトリエフルカワ一級建築士事務所設立(東京都知事43130号)
森林インストラクター、おもちゃコンサルタント NPO法人家づくりの会、東京建築士会、東京都木造住宅耐震診断事務所(第124号)、 CASBEE評価員(戸建-03107-15)、公認住宅医(No.sapj2015103)、既存建物現況調査技術者、武蔵野美術大学校友会副会長(広報部長兼任)

著書

  • 木の家に住みたくなったら。(エクスナレッジムック)
  • プロのスゴ技でつくる楽々DIYインテリア(エクスナレッジムック)
  • ローコストで最高の家を建てる方法(エクスナレッジ)
  • やっぱり、木の家がほしい!―建築家とたてる安くても住み心地がよい木の家の作り方&頼み方(共著)(アーク出版)
  • [住宅]設計監理を極める100のステップ(共著)( エクスナレッジムック)
  • 世界で一番くわしい木材(共著)(エクスナレッジムック)

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