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森と建築を一緒に考える 森と建築を一緒に考える
アトリエフルカワ一級建築士事務所 古川泰司
森は大切

アトリエフルカワ一級建築士事務所の古川です。建築の設計を主な仕事としながら林業とか、木材、そこにつながる建築をずっと自分のライフワークとしてやっています。その中で、山側(川上)の問題、木材の生産と流通(川中)の問題、木材利用(川下)の問題、それぞれに問題があって、それぞれを解決していかないと森と建築はつながらないと、大きな問題を解決するにはそれぞれの問題を「横節を通して考える」みたいな事が必要だと感じています。

この連載は、その横串を刺す試みです。

森と建築はつながっているのか?

この写真は屋久島です。30 年ぐらい前です。真ん中に若干20歳の私がおります。大学時代にワンダーフォーゲルグで山登りをしていました。森が好きで森の中歩くのはずっと好きだったんですね。

大学で建築を勉強していたんですけども、大学で教えてもらう建築の世界と僕が山登りで見てる森の世界が繋がってるはずなのにどう繋がっているのかわからない。それは何故か?僕の中で悶々としていたわけです。

僕が大学(武蔵野美術大学)で建築を学んでる時は、大学では木造建築をほとんど教えていませんでした。木造建築は工務店さんがやるもの、大工さんがやるもので、大学で教えるのは鉄筋コンクリートのビルとか鉄骨造の大きな建物でした。全然木造の話は授業で出てこなくてまったく知りませんでした。ただ、その大学から筑波大学の大学院に縁がありまして行くことになった、そこでいきなり「国産材」という話が耳に飛び込んできた。まだ国産材の問題を誰も言ってない頃だったんですが、戦後に植えた木が成長していて、これを使わなくちゃいけないということで、筑波の小学校の体育館を作るプロジェクトがあって、それの記録を担当して工事現場に通っていました。

ご存じの方も多いと思いますが木造建築の世界では有名な安藤邦廣先生が筑波大学におられて、先生と一緒に現場に通っていました。安藤先生は写真を撮って僕はビデオカメラで撮影していました。現場を仕切っていた大工さんは田中文男さん。知ってる方も多いと思います。

この現場は当時の槇建設が木工事を担当していたんです。だから、工事現場だけじゃなくて槇建設の作業場にもかなり通いました。田中文男さんは東大の太田博太郎先生の技術顧問でもあった人で、なかなかすごい大工さんです。全国から腕自慢の大工が田中文男のもとに集まってきていました。

法隆寺の宮大工として有名な西の西岡常一に対して東の田中文男というひともいます。そういう人に縁があって彼の仕事をしているすぐ側で過ごす機会をいただいたわけです。

それで、つくば時代に、国産材を使うことが世間で話題になるずっと前に、日本の森の問題を教えてもらっていました。そこで、僕がそれまでに山歩きで見ていた森と建築がどうやって繋がっているんだろう?と考えるようになったわけです。

日本の森や木材に関連する2つの団体

大きな 2 つの全国組織である団体があります。「全森連(全国森林組合連合会)」というのは森林業の方の川上の団体で、「全木連(全国木材組合連合会)」は材木屋さんとか製材所とかの川中から工務店さんも入っている団体です。
専門用語ですが、山主や木こりの人たちを「川上」、おもに製材所を「川中」、そして工務店や設計事務所を「川下」と呼んでいます。

今から 4 年ぐらい前に始まったJAS構造材木材利用拡大事業っていうのがあります。構造材として使う木材はJAS表示(日本農林規格)のものを使おうというキャンペーンです。そこで構造設計者の山田憲明さんと対談をさせてもらった記事が新聞広告や電車の車内吊り広告になりました。これは全木連さんからの、つまり川中の方々からの依頼ですね。覚えておられる方も多いと思います。

もう 1 つ、これは「森林組合」という雑誌での連載をやってました。タイトルは「木材活用はバケツリレー」。30回以上続いた連載ですが、これはもう一つの団体である全森連の雑誌です。川上の方からの依頼です。

このように「川上」側の人とのつながりと「川中」側の人とのつながりの両方がある人って意外と少ないかと思います。

そう言う意味では両方の問題意識をもちながら、横串を刺していくことが出来るのではないかと思います。

「森」「木」「木材」「建築」

横串を通すためにまずは全体の構図を俯瞰的に把握していて欲しいと思います。

先ほどもふれたように山主とか木こりのひとたちは「川上」といいます。
そこで、山で育っている木を丸太にします。山を育てる育林の仕事がありますし、伐倒して丸太にする素材生産の」仕事がここにあります。
私が用意した俯瞰図では「森」と「木」がこれにあたります。「木」というのは丸太のことだと思ってください。
その丸太を受け取って四角い形に加工するのが製材所です。加工されるとこれは「木材」になります。この木材を使って工務店さんの手で「建築」が作られるわけです。
今どの立場で語っているのかが大事ですので、この俯瞰図を最初にしっかりと頭に入れてください。

森林の多面的な機能 森の大切さ

まずは「森」の話をしていきましょう。森の大切さについてです。森林には多面的な機能があって我々の生活に密接に関わっています。ネットで検索しても色々出てきますが次の8つに整理できると思います。

1、地球環境保全機能
森林は地球温暖化の原因とされている CO2 を固定しています。

2、災害防止機能・土壌保全機能
樹木の根が張った地表層は大雨などの時に表土の流失と崩壊が抑えられています。荒廃した森では土砂災害の危険性が増すのです。

3、水源涵養機能
森林のなかで樹木の根っこがスポンジのように働いてくれて、降った雨を一時的に蓄えてくれる機能です。しばらく雨が降らなくとも森林が蓄えてくれた雨が下流に少しずつ放出されていきます。

4、快適環境形成機能
樹木は光合成のときの蒸発散作用の気化熱でクーリング作用があります。福岡のアクロポリスでは階段状に作られてた屋上庭園の緑が隣接する芝生公園の温度を下げているという実測結果も出ています。

5、保健・レクリエーション機能
自然の中で過ごすことで人はリフレッシュできます。樹木が出すフィトンチッドという成分や、樹木の葉っぱの風で揺れる音にある1/fのゆらぎとかの人をリラックスさせる効果が認められています。
森林セラピーとか森林学という分野もあってすごく見直されている森林の機能です。

6、生物多様性保全機能
森林は多様な生物の生活の場です。多くに生き物にとって森林は生活の場として大切です。森林の持つ生物多様性人間が壊してはいけません。

7、文化教育機能
古くから森林は人間の精神的な糧になっています。鎮守の森とか巨樹信仰とか森林は心の拠り所として大切なものです。

8、物質制作機能
最後になりますが森林の持つ生産機能です。きのこなどの山菜、漆など古くから人間は生活に必要な様々なものを森林から得ていました。雑木林から切ってきた薪は生活に必要なエネルギー源として重要でした。そして、今回のメインである建築資材の生産の場としても大切なのです。

森林環境生態学

こうした多面的な機能を持つ森林を理解して我々は共存していく必要があるのです。
この図は藤森隆郎先生がつくられた有名な図です。藤森先生は森林環境生態学を提唱されている方です。

林業の方なんですが、そこで暮らす生物をすべて含めてバランスが取れた森を作っていきましょうということです。後で触れるSFCという森林認証にもつながっています。

小学生の授業でこの図を使ったことがあって、もう小学生みんなガン見でした。小学生と一緒に見ていくと、樹木の葉っぱのところに芋虫がいて葉っぱを食べてますね。鳥がその芋虫を食べて、その糞が落ちて、そこに微生物がいたりと全部繋がってます。こうしたみんなが森に返っていくみたいな話なんですが、小学生は素直に受け取ってくれます。大人の反応はそれほどでもない。大人はその素直な感覚をいつからか鈍くしてしまったんでしょうね、きっと。

ところで、この図には人間が描かれていない。この図の中に人間を描くことが森と建築をつなぐことだろうと考えています。

(つづく)

執筆者のご紹介

古川 泰司
古川 泰司
武蔵野美術大学建築学科卒業後、'88年筑波大学院芸術学系デザイン専攻建築コース修了。建築事務所や工務店に勤務後、'98年アトリエフルカワ一級建築士事務所設立。林業、製材、職人をつないだ、地域の木を生かした建物の設計を行っています。最近では、住宅医の資格を活かしながら、空き家活用で地域の空間資源再生を通した地域再生やコミュニティづくりにも取り組んでいます。 https://a-furukawa.com/

略歴

  • 1963年5月 新潟県生まれ
  • 1981年3月 新潟県立高田高校卒業
  • 1985年3月 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業
  • 1988年3月 筑波大学院芸術学系デザイン専攻建築コース修了
  • 1988年4月 株式会社パルフィ総合建築計画入社
  • 1990年3月 有限会社長谷川敬アトリエ入所
  • 1991年12月 一級建築士資格取得(国土交通大臣239555号)
  • 1995年8月 シルクロードとチベットへの旅行(8月〜10月)
  • 1995年11月 株式会社内田工務店入社
  • 1997年11月 株式会社内田工務店退社 事務所設立の準備を始める
  • 1998年5月 アトリエフルカワ一級建築士事務所設立(東京都知事43130号)
森林インストラクター、おもちゃコンサルタント NPO法人家づくりの会、東京建築士会、東京都木造住宅耐震診断事務所(第124号)、 CASBEE評価員(戸建-03107-15)、公認住宅医(No.sapj2015103)、既存建物現況調査技術者、武蔵野美術大学校友会副会長(広報部長兼任)

著書

  • 木の家に住みたくなったら。(エクスナレッジムック)
  • プロのスゴ技でつくる楽々DIYインテリア(エクスナレッジムック)
  • ローコストで最高の家を建てる方法(エクスナレッジ)
  • やっぱり、木の家がほしい!―建築家とたてる安くても住み心地がよい木の家の作り方&頼み方(共著)(アーク出版)
  • [住宅]設計監理を極める100のステップ(共著)( エクスナレッジムック)
  • 世界で一番くわしい木材(共著)(エクスナレッジムック)

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