国土交通省はこのほど、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策のあり方、進め方」を取りまとめ公表しました。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)特別報告書では、将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないようにするためには、2050年前後には、世界の二酸化炭素排出量が正味ゼロとなっていることが必要との見解を示しました。また、IPCCは今年8月の第6次評価報告書第1作業部会(自然科学分野)報告で、気候変動は人為的なものであると指摘、国連のグテレス事務総長は「人類にとって非常事態だ」とのメッセージを伝えています。
【参照 クボデラ 木の哲人講座 https://kubodera-zousaku.com/g-50/】
今回の施策はまさにIPCC報告が反映されたものであり、気候変動問題への対策が極めて急を要する課題であることを示していると思います。国土交通省だけでなく、農林水産省、環境省、経済産業省等をはじめとした関係省庁や地方公共団体にとっても、脱炭素社会の実現は今後の最重要政策課題になっていくと考えられます。
国の省エネ対策に向けた今回の方向性も、こうした世界情勢を反映したものです。国土交通省は9月1日、住宅以外の既存建築物を対象とした「令和3年度既存建築物省エネ化推進事業」の第2回募集を開始しました。URLは下記の通りです。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001419720.pdf
国土交通省は、既存住宅についても「部分断熱等改修実証事業」の第2回公募を決定しています(詳細は未定です URLは下記)。
http://www.swrc.co.jp/dannetsu/index.html
今回の住宅・建築物における省エネ対策のあり方は、気候変動問題が私たちの生活に重要な影響を及ぼしてくるという危機感の下、「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組み」、「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの進め方」として取りまとめるとともに、2030年までの中期ロードマップ、2050年までの長期ロードマップを示しました。2030年度までに新築された住宅・建築物について、ZEH(ネットゼロエネルギー住宅)、ZEB(ネットゼロエネルギービル)水準の省エネ性能が確保されているとともに、新築戸建住宅の60%において太陽光発電設備が導入されていることを目指すとあります。
後述しますが、取り組みの進め方では、二酸化炭素吸収源対策として、「木材の利用拡大」をはっきりと打ち出しています。
省エネ対策に関する方針が明示されたことで、関係省庁の予算策定でも住宅・建築物の省エネ対策に関する事業、例えばZEH、ZEBへの取り組み加速化、太陽光発電に代表される再生可能エネルギーの導入拡大(エネルギー転換)、二酸化炭素吸収源対策のための木材利用拡大といったことへの具体的な事業が今以上に多く動き始めると予想されます。
「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの基本的な考え方」では、省エネ性能の確保・向上による省エネルギーの徹底と再生可能エネルギーの導入拡大を目指します。
そして、2050年(長期)に目指すべき住宅・建築物の姿については、ストック平均でZEH、ZEB基準の省エネ性能が確保されること、導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能エネルギー導入が一般的となるとしています。2050年は国が公約したカーボンニュートラル、脱炭素社会実現のゴールであり、この基本方針を踏まえ連動した取り組みといえます。
2030年(中期)に目指すべき住宅・建築物の姿については、新築される住宅・建築物についてはZEH、ZEB基準の省エネ性能が確保される、新築戸建て住宅の60%において太陽光発電設備が導入されるとしています。
国土交通省の役割では、「責任をもって主体的に取り組む」「最終的な責任を負って取り組む」との決意が述べられています。これらの言葉は私たちが日常的に聞くお役所言葉とは異質であり、本気度を感じさせます。
「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの進め方」では、省エネ性能の底上げ(ボトムアップ)では、住宅を含む省エネ基準への適合義務化(2025年度)が注目されます。
また、義務化が先行している大規模建築物から省エネ基準を段階的に引き上げること、遅くとも2030年までに、誘導基準への適合率が80%を超えた時点で義務化された省エネ基準をZEH、ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げることが打ち出されています。
省エネ性能のボリュームゾーンのレベルアップでは、建築物省エネ法に基づく誘導基準や長期優良住宅、低炭素建築物等の認定基準をZEH、ZEB基準の水準に引き上げ、整合させること、住宅トップランナー制度の充実・強化など、省エネ性能表示の取り組みでは、新築住宅・建築物の販売、賃貸の広告等における省エネ性能表示の義務付け(2024年度)などが盛り込まれています。既存ストック対策としての省エネ改修についても支援事業が拡充されるとみられます。
二酸化炭素の吸収源対策では、木材の利用拡大が前面に示されています。ここでは、木造建築物等に関する建築基準のさらなる合理化、公共建築物における率先した木造化・木質化の取り組み、民間の非住宅建築物や中高層住宅における木造化の推進、木材の安定的な確保の実現に向けた体制整備の推進に対する支援、地域材活用の炭素削減効果を評価可能なLCCM住宅・建築物の普及拡大が示されています。
前記した表は、平成28年度省エネ基準以降の断熱性能に関するUA値(外皮平均熱貫流率)を1地域から7地域までまとめたものです。
当社のお取引先で、断熱性能に大変注力されている工務店がおります。同社の特徴は地域産材をふんだんに使用した木造住宅(柱は桧4寸、耐震等級は3)。ですが、6地域の中でも夏の猛暑で有名な地域を商圏としており、特に夏の暑さ対策と断熱材の環境適合性を重視し、最も外気侵入が厳しい屋根断熱には木繊維断熱材シュタイコを二重張りした断熱を行っています(写真)。壁は特に断熱性に優れたSW(スーパーウォール)を採用し、UA値(外皮平均熱貫流率)0.41と国内最高等級のHEAT20のG2をクリアしています。またC値(隙間総統面積)は0.41を実測しています。
こうした断熱性能に優れた木造住宅も、地域工務店で十分取り組むことが可能です。クボデラ株式会社では地域工務店の皆様とともに、断熱性能に優れた住宅建築や既存住宅の断熱改修を推進していきたいと考えます。補助事業等につきましてもご相談を承ります。2025年度の省エネ基準適合義務化は目の前です。