民間シンクタンクの野村総合研究所(東京都千代田区)はこのほど、新設住宅市場の中長期予測を発表し、2040年度の新設住宅着工戸数は46万戸まで減少するとの見通しを公表しました。
野村総研レポート以上にショッキングだったのが伊予銀行の研究機関が21年4月下旬に発表した愛媛県の住宅市場予測で、2020年の8049戸が2040年には3295戸まで6割減になると予測したことです。
我が国の木材建材産業は長年、新設住宅に多くを依存した産業モデルでしたが、この予測を踏まえた時、そうした従来型産業モデルが終焉を迎える恐れがあることも覚悟する必要があります。新設住宅向け建築資材需要が大幅に減少し、建築資材等製造事業者、木材建材流通事業者、住宅建築事業者の淘汰が進むことは確実です。新築住宅依存の産業モデルを見直し、非住宅建築での木造・木質化比率を高めていくことが急務だと思います。
野村総研レポートでは、今回の中長期予測モデルにおいて、新設住宅着工戸数に大きく影響を与えるのは、移動世帯数、住宅ストックの平均築年数、名目GDP成長率の3点であるとしています。
同レポートでは上記検討要因として、移動世帯数の項目では、総人口、生産年齢人口、総世帯数、世帯主が生産年齢に該当する世帯数、移動人口、移動世帯数など。住宅ストックの項目では、住宅ストック総数、平均築年数、空き家数、空き家率など。経済成長の項目では、実質GDP、実質GDP成長率などから推定しています。
同レポートでは移動世帯数について、2020年の418万世帯が2030年には386万世帯、2040年には343万世帯に減少していくと予測しています。直近のピークは2000年頃の457万世帯です。
人口の変化については総務省の資料が詳しいので紹介しますと、2018年の総人口は1億2644万人、生産年齢人口60%(15~64歳)、高齢化率28%(65歳以上)が、2065年には総人口8800万人、生産年齢人口51%、高齢化率38%になると予測しています。今更ながらの数字ですが、高齢化がかつてない水準に上昇する一方、出生率の低下による少子化が顕著となります。
人口の集中も進行します。東京圏の人口は3600万人にのぼり、さらに比率が上昇すると予測されます。東京圏の出生率は全国最低の1.15人ですが、東京の大学等を卒業後、東京圏で働くケースが多いことが背景にあります。もちろん、出生率が低いことから東京圏の高齢化も進行していきます。
同レポートでは住宅ストックの平均築年数について、2013年の22年から、30年には29年、40年には33年に伸びると予測しています。これは住宅ストックが建築後、いくら減少するかという「住宅ストックの減少率」を元に算出します。住宅性能が向上したことで築年数が伸びています。このため、新たに建築された住宅が滅失・除去されるまでの期間が長くなり、その分、新設住宅需要を下押す要因となります。特に建替え住宅ニーズに影響してきます。
同レポートが参考にしている総務省「住宅・土地統計調査」によると、2018年の総住宅数は6241万戸、このうち空き家数は849万戸で、空き家率は13.6%でした。中長期予測は、住宅の除去率が2008~2012年度水準に戻るとのシナリオで、2023年には総住宅数6545万戸、空き家1135万戸、空き家率17.3%。2028年にはそれぞれ6809万戸、1457万戸、21.4%、2033年にはそれぞれ7037万戸、1796万戸、25.5%、2038年にはそれぞれ7262万戸、2254万戸、31.0%と予測しています。
また、「空き家等対策の推進に関する特別措置法」施行後の水準で継続した場合はここまで空き家が増加することはありませんが、2038年の段階で1356万戸、空き家率20.9%と予測しています。
日本の世帯数の将来推計(国立社会保障・人口問題研究所、2018年推計)では、日本の世帯数推移は、2023年の5419万世帯が2040年には5076万世帯に減少し、1世帯当たりの人数は15年に2.33人から40年には2.08人になると予測しています。65歳以上の世帯主数は1918万人から2242万人、75歳以上は888万人が1217万人に増加し、全世帯主占める65歳以上は36%が44%、65歳以上の世帯主に占める75歳以上は46%が54%になると予測しています。
既に住宅総数より世帯数のほうが少ない状況で、ギャップはさらに広がっていきます。空き家数の増加で、新たに住宅を建築するのではなく、相続や貸家を購入するという動きも増えてきます。特に人口の減少が急速に進行する地方部では空き家比率の上昇が速く、住宅を新築する動きが鈍化すると考えられます。
同レポートでは、名目GDP成長率が中長期的に鈍化し、2035年度には0.1%まで落ち込むという日本経済研究センター第47回中期経済予測(21年3月22日公表)を元に予測しています。過去のこうした経済成長率に関する予測と異なり、20年春から深刻化した新型コロナウイルス感染症問題が全く新しいファクターとなっており、短期的に経済成長の大きなマイナス要因となっています。
これらの要因を元に、野村総研では、新設住宅着工戸数を2030年度65万戸、2040年度には46万戸まで減少すると予測しました。利用関係別では、2030年度には持家21万戸、分譲18万戸(分譲マンション含む)、貸家27万戸としています。
木造住宅に対する言及はありませんでしたので、ここからは推測になります。2020年度の新設住宅着工戸数は85万戸、うち木造住宅着工戸数は48万戸、木造率56%強でした。この数値を元に、2040年度は2020年度比45%強の減少になるとして、木造住宅にも同様の減少率を当てはめると25万戸となります。木造、非木造間の市場競争が熾烈を極めると思います。しかしながら、木造率が60%に上昇したとしても28万戸弱です。
木造住宅1棟当たり木材製品使用量を考えれば、どの程度の木材製品需要があれば足りるか想像がつくと思います。新設住宅以外の木材製品需要の拡大が急務となります。クボデラ㈱では新設住宅以外の建築材市場として、耐震、断熱性能向上を軸とした既存住宅リフォーム、RC造やS造に替わる非住宅木造・木質化建築物を特に強化すべき分野と位置づけ、皆様とともに取り組んでいきたいと考えます。