2021年の年明け早々、北米産針葉樹上級材を原材料に造作用材や建具・家具用材、楽器用材などを製造している関係者の間に衝撃が走りました。北米産針葉樹上級材丸太の供給最大手であるシアラスカ(アラスカ州)が丸太伐採事業から撤退すると表明しました。
シアラスカはアラスカ先住民による総合企業で、木材事業については事業会社であるシアラスカティンバーを通じて、アラスカ南東部の広大な森林を管理運営するとともに、伐採された丸太を半世紀近くにわたり北米市場や極東市場に販売してきました。
かつては日本が最大の市場で、大変目が詰まったアラスカ産米ツガ、シトカスプルース、米ヒバは品質に定評があり、上級材で製材された造作、建具などは最上とされてきました。
現在、名古屋港に入っている丸太船でシアラスカティンバーからの供給は終了します。日本国内の丸太在庫も多くないことから、今後、シトカスプルース関係を中心に、日本市場でも混乱が広がりそうです。
噂では、木材事業を北米のカーボンクレジット取引会社が買収するとの話もあり、輸入商社など関係者が情報収集を進めています。シアラスカはアラスカ州にまだ長期伐採権が残っていますので、新しいオーナーの下で丸太販売が再開される可能性もあります。
当面の問題としては中国、日本、韓国で年間30万立方㍍規模の同社からの丸太輸出がなくなった場合の影響です。70%を占める中国の動きが特に注目されます。日本もシトカスプルース上級材を中心に影響が広がりそうです。
関係者はカナダ産シトカスプルースにシフトすると指摘しています。アラスカ産丸太輸出ではアルキャンという会社もありますが、供給量は比べ物にならないぐらい少なく、シアラスカからの供給を代替する力はありません。
カナダ産については、ブリティッシュコロンビア(BC)州北部を中心とした州有林余剰丸太輸出が第一候補、次いでBC州内で調達したシトカスプルース丸太を原材料に現地で製材するカスタムカット半製品での調達となります。
ただ、いずれのルートにも、日本以上に供給問題が深刻な中国勢の参入が激しくなると考えられ、中国勢との競合では日本勢に勝ち目はなさそうです。このほか、BC州内陸産ホワイトスプルース、ホワイトパインなどの白系樹種のクリア材調達という手もありますが、安定供給は望めないと思います。長期的にはシアラスカティンバーの新たなオーナーの動向次第ですが、現状は不透明そのものです。
シアラスカティンバーが輸出するシトカスプルース上級材丸太の主力市場は日本です。造作、建具、木製家具・什器、楽器木部などが特に影響を受けるほか、白系樹種を好む北海道市場のスプルース並材需要にも影響しそうです。また、日本の楽器メーカー多数が中国に工場進出しており、中国国内でのピアノ、ギターなどの部材供給も不安定になりそうです。
シアラスカティンバーの日本向けはベイツガ、シトカスプルース、米ヒバ、米杉です。慢性的な品薄が続く米杉(ウエスタンレッドシダー)内装材にも影響が懸念されます。
当社もシトカスプルースは造作、建具部材製造・商材の主要な原材料です。今回の事態を受けて、今後の安定供給体制確保のため、様々な仕入れルートを駆使し、今入手できるシトカスプルース原材料の調達に務めております。供給の安定性は元より、価格の安定にも最大限注力していく所存です。