今回はSDGs時代を迎え、国が総力を挙げて取り組む「カーボンニュートラルの実現」と森林・林業・木材産業について、令和4年度林野庁予算から見ていきます。昨年、政府が表明した2050年カーボンニュートラルの実現は令和4年度概算予算要求において、全省庁に共通した事業課題となっています。
林野庁も概算予算要求で「カーボンニュートラル実現に向けた森林・林業・木材産業によるグリーン成長」と銘打ち、要求額は令和3年度当初予算額対比で14%もの増額となっています。2050年カーボンニュートラルの実現、脱炭素社会の実現、グリーン成長の実現という国全体の大目標に向け、特に森林・林業・木材産業が果たす役割は大変大きいといえます。
もちろん、概算予算要求の段階ですから、要求が満額で承認されるとは思いませんが、国も森林・林業・木材産業からの取り組みが重要であるとの認識は明確で、来年3月ぐらいまでに勢ぞろいする具体的な事業内容が注目されます。山側の施策だけでなく、建築物の木造・木質化も重要な課題であり、国土交通省などとの連携事業も増えてくると思います。
林野庁の令和4年度事業予算概算要求における重点事項は下表の通りです。主な重点事項ごとに詳細を見ていきます。
森林整備事業(1477億6700万円)
同事業は、カーボンニュートラルを見据えたグリーン成長を実現するため、森林吸収量の確保・強化や国土強靭化、林業の持続的発展等を図るべく、間伐の着実な実施に加え、主伐後の再造林の省力化・低コスト化や幹線となる林道の開設・改良を推進するものです。主な事業目標では、森林吸収量の確保に向けた間伐を実施するとしており、令和3年度から令和12年度までの10年間の年平均45万㌶を目指します。
治山事業(733億4600万円)
地域の安全・安心の確保のため、流域治水プロジェクトと連携した流域保全対応の治山対策の強化や、自治体・事業体の負担軽減等を通じた同時多発化する山地災害への機動力の向上、東日本大震災からの復興の取り組みを踏まえた津波に強い海岸防災林の全国的な整備を推進するものです。主な事業目標は、周辺の森林の山地災害防止機能等が適切に発揮された集落を平成30年度の約5万6200集落から、令和5年度には約5万8600集落を目指します。
除・間伐された素材の受け皿の一つとして木質バイオマス燃料という新需要が創出されました。山に切り捨てられる間伐材が大幅に減少し山がきれいになるとともに、建築材料と異なり、樹皮・枝葉・根株なども燃料となるという点は、林家にとってうれしいことです。
近年の異常気象を背景とした豪雨により頻発する山林での大規模土砂崩れ問題は、山地災害で被害を拡大している流木問題と合わせ、治山対策が重要な施策となっています。
森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策(合計223億9400万円)
カーボンニュートラルを見据えた森林・林業・木材産業によるグリーン成長を実現するため、「新しい林業」経営モデルの構築、路網の整備、間伐や再造林、木材加工流通施設の整備、「林業イノベーション」の推進、都市部における木材利用の強化、輸出を含む新たな需要の創出、国民運動の展開など、川上から川下までの取り組みを総合的に支援となっています。
㋐から㋕まで策定されています。同事業は川上だけでなく、川中、川下の事業者にも関係してきます。主な政策目標は、国産材の供給量を令和元年度の3100万立方㍍から令和12年度には4200万立方㍍に拡大するというものです。国産材供給比率(自給率)は令和2年度で42%まで上昇してきましたが、林野庁は令和12年度には48%まで高める考えです。
㋐「新しい林業」に向けた林業経営育成対策(15億4200万円)
新たな技術の導入により、林業の収益性向上を図り、経営レベルで「伐って・使って・植える」を実現できるような経営モデルを構築するとともに、長期にわたる持続的な経営を担う林業経営を担う林業経営体の育成を図ります。政策目標として、主伐の林業生産性を令和12年度までに5割向上するとしています。戦後植林された針葉樹人工林立木は主伐可能な段階まで成長しており、これを伐採し跡地に植林するというる本当に循環する森林の実現が待ったなしの段階に来ています。
㋑林業・木材産業成長産業化促進対策(146億1400万円)
搬出間伐、主伐と再造林を一貫して行う施業、路網の整備・機能強化、高性能林業機械の導入、コンテナ苗生産基盤施設、木材加工流通施設や木造公共建築物の整備など、川上から川下までの取り組みを総合的に推進します。主な事業内容は、持続的林業確立対策、木材産業等競争力強化対策、林業成長産業化地域創出モデル事業です。このうち、川下に関係する木材産業等競争力強化対策は、木材加工流通施設等の整備、木質バイオマス利用促進施設の整備、特用林産物振興施設等の整備、木造公共建築物等の整備が盛り込まれています。
木材加工流通施設等の整備では、改正木材利用促進法に対応し得る供給力強化を図る施設整備を優先的に支援していきます。木質バイオマス利用促進施設の整備では、地域連携の下で熱利用または熱電併給に取り組み、「地域内エコシステム」を重点的に支援していきます。木造公共建築物等の整備では、製材やCLT等の活用など木材利用のモデル性が高い施設の木造・木質化を重点的に支援していくとともに、改正木材利用促進法に基づく協定締結者を優先的に支援していきます。
㋒林業イノベーション推進総合対策(19億1000万円)
造林作業の自動化機械やセルロースリグニン等の木の成分を使用した木質系新素材の開発および工業製品等への利用に向けた実証、森林GIS・クラウド化などスマート林業や森林資源デジタル管理の推進などを目指します。また、開発技術の実装・環境整備ではICT等先端技術の導入による山元と川下の需給をリアルタイムで共有、ドローンを活用した苗木運搬など低コスト造林技術の展開、レーザー計測での資源情報把握などを推進していきます。
㋓建築用木材供給・利用強化対策(22億円)
都市部における木材利用の強化等を図るため、建築用木材の利用の実証への支援、大径木活用に向けた技術開発等への支援、製材やCLT・LVL等の建築物への利用環境整備への支援を行います。また、川上から川下までの需給情報の共有を図るとともに、地域ごとの生産・流通における課題を解決するための独自の取り組みを支援し、建築用木材の安定的・効率的な供給体制を強化します。
今年度も「JAS構造材利用拡大事業」、「外構部の木質化対策支援事業」などがこの事業枠で実施されました。上記したように、都市部における木造・木質化推進は引き続き、重要施策となっており、国土交通省との連携という形での事業も複数計画されると思います。
㋔木材需要の創出・輸出力強化対策(6億1500万円)
非住宅建築物等の木造化・木質化、木質バイオマスのエネルギー利用、木材製品の輸出推進、流通木材の合法性確認を推進するためのシステム開発に向けた調査などが計画されています。新設住宅市場の将来的な漸減見通しも踏まえ、国は非住宅建築物の木造・木質化、国産材輸出を有力な新規木材需要分野と位置付けており、輸出では、現状の素材偏重から、製品での輸出を伸ばしていきたいとの考え方です。
合法木材に関する確認システム構築に関しては、今年度も入札による事業者募集があったところですが、SDGsの時代を迎え、ESG投資も見据えた時、より信頼性、安全性の高い合法木材が求められます。国が推進するクリーンウッド法に基づく現行の合法伐採木材に関する制度だけでは不十分との指摘もあります。
㋕カーボンニュートラル実現に向けた国民運動展開対策(6億4800万円)
新規事業です。事業名にあるように、カーボンニュートラル実現への啓蒙、啓発に向けた国民運動を推進します。上記した森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策をソフト面から支援していくともいえます。政策目標として、令和12年度までに国民参加による植樹1億本を目指すとあります。
「緑の人づくり」総合支援対策(53億1800万円)
林業従事者、施業者に関する施策をまとめています。素材生産拡大を目指すうえで、林業現場において実際に伐採、造林等の施業を行う人材の確保はボトルネックといえます。しかしながら、林業従事者は深刻な高齢化と後継者難に直面しており、人材の確保がままなりません。日給制や出来高制を基本とした不安定な収入状況、社会的地位の低さ、労災事故の多さ、脆弱な福利厚生、現場での人間関係などで新規に林業を敬遠するという課題もあります。事業目標として、令和4年度に新規就業者1200人、労働安全の向上、令和5年度までに森林経営管理制度の支援を行える技術者を1000人育成することなどが挙げられています。
この事業では、新規就業者に向けては、就業ガイダンスの開催、高校生・社会人に対するインターンシップ、また、林業大学校などで学ぶ人に対し年間最大155万円(最長2年間)の給付金を支援、フォレストワーカー(林業作業士)研修での年間最大137万円の支援などを導入対策とし、定着化に向けては、フォレストリーダー(現場管理責任者)、フォレストマネージャー(統括現場管理責任者)研修によるキャリアアップ、技能検定制度の創設および支援が示されています。また、市町村の森林・林業担当職員を支援する技術者の養成や、全国の知見・ノウハウを集積・分析し、市町村に提供する事業も計画されています。
クボデラ株式会社では本格的な国産材時代を迎え、全国の国産材製材を取り扱うようになりました。合法性、透明性の高い製材調達という時代の要請にこたえ、第三者機関による国際的な森林認証(CoC認証)取得作業も進めており、来年以降、精力的にCoC認証材を市場に提案していく考えです。
また、直営木材加工設備を活かし、国産材製品の付加価値を高め、収益を山元に還元する取り組みも進めています。21年7月にはSDGsへの取り組み「クボデラSDGsチャレンジ2021」を公表したところです。
今後とも皆様とともに国産材需要の拡大に取り組んでまいります。
クボデラSDGsチャレンジ2021 | クボデラ株式会社 (kubodera.co.jp)