構造用製材業界に危機感
木造住宅等の構造材はこれからどうなっていくのか。
4号特例の見直し、省エネ適判の義務化、断熱等性能等級における最低基準の引き上げ。
プレカット大手の経営者は「工務店の対応が遅れている。私見だが建築業界は姉歯事件以上の混乱を引き起こす恐れもある」と指摘する。
木材業界からは、建築事業者の確認申請停頓だけでなく、確認申請を行った場合でも確認審査の法定審査期間が大幅に長期化することで、法改正と前後して姉歯事件当時のように木材製品の動きが人為的に鈍化することも警戒する。
構造図書、省エネ適判とも確認申請時に提出する義務があり、それができない工務店は確認申請に進めないことになる。また、新築にとどまらず、これまで確認申請が不要であった2階建て以下の木造建築物で主要構造部(屋根・壁・柱・梁・床・階段)のうち1つ以上について半分以上修繕や模様替えする大規模リフォーム等も確認申請対象となることも忘れないでほしい。自力か他力かはともかく、半年といわず年内には法改正に対応できるように準備していくしかない。
4号特例の見直しに伴い、どのような変化が出てくるのか、木材業界も強い関心を示している。
4号特例では建築士が設計する場合、建築確認申請時に構造耐力関係規定の審査を省略できたが、25年4月着工分から構造に関する図書の提出が義務化される。最大の関心事はこの改正を受けて木質構造部材で工務店等は何を選択するのかという点だ。特に強度裏付けを基準強度に依存する構造用製材関係者は、需要家からの評価を不安視している。
4号特例見直しに伴い、構造計算等を実施する場合、工務店はどのような木質構造材を選択するのであろうか。
一般的な木造住宅等の構造検討の方法は、建築基準法における仕様規定、品確法の計算、許容応力度計算(構造計算)の3つがある。ただし仕様規定は最低基準であり、構造計算とは言い難く、品確法の住宅性能表示制度で規定されている3段階の耐震等級の最低等級(耐震等級1)にとどまる。
今後のさらなる法制度改正、2030年までのZEH義務化、非住宅木造建築への参入、耐震上位等級実現を見据えた時、工務店も許容応力度計算を標準化することは避けて通れないと考える。
優位性高まる強度表示構造材
構造計算に適した構造材となると、1本ごとにE強度(ヤング率)、F強度(曲げ強度)が材料に明示されているJASの機械等級区分構造用製材、構造用集成材、構造用LVL、CLTが優位となる。
JASの目視等級区分構造用製材も等級別に3段階の基準強度が規定されているが、基準強度は機械等級区分構造用製材に比べ低く設定されている。JASを取得していない構造材(無等級材)も建設省告示で基準強度は設定されており、これを元に構造検討することは可能だが、出現強度における安全率を見ているため、さらに低く設定されている。
構造に関する図書の提出が義務化される際に、木造軸組住宅構造材はどうすべきか。最も安全な方法は材料ごとに強度が明示されているJASの機械等級区分構造用製材、構造用集成材、構造用LVL、CLTを使用することである。
構造用集成材は板材(ラミナ)を接着積層することから人工乾燥させやすく、構造用製材と異なり木材内部まで適切な含水率を確保でき、構造用製材で含水率不備により発生する反り・曲がり等の変形の問題も起きにくい。
JASの目視等級区分構造用製材、さらに無等級構造材の場合、基準強度に基づいて構造計算すると、強度が不足するケースが出てくるおそれがある。その場合は材料の小径を大きくする、構造材間の距離を短く設計する等の措置必要がある。また、梁・桁等の横架構造材であれば梁せいを大きくするといった措置が求められる。
建築基準法改正では柱の小径に関する見直しにも言及しており、重くなる住宅等の鉛直荷重対策として、小径(断面)を大きくする、上下の梁間距離を短くする等の措置が必要となってくる。
例えば軽い屋根、2階建ての1階の柱が長さ3200㍉の時、柱の小径は、3200×1/30=106.66以上が必要となり105㍉角の柱は不可となる。また有効細長比規定というものがあり、105㍉角の柱で柱長さが4600㍉の場合の有効細長比は151.76となり、有効細長比を150以下と規定している建築基準法第6条に合致できず不可となる。
仕様規定に基づく構造検討の場合、上記したような不可に対し修正が発生する恐れがあるが、許容応力度計算に基づく構造計算で既存の構造材が適合すればそうした修正は必要ない。その場合も強度基準が明示されているJAS構造材を使うに越したことはない。
上表に杉構造用製材におけるJASの機械等級区分構造用製材、JASの目視等級構造用製材、無等級についてそれぞれの圧縮(Fc)、引張(Ft)、曲げ(Fb)、せん断(Fs)基準強度をまとめた。
目視等級区分構造用製材の甲種は主として曲げ性能を必要とする部分に使用するもので、土台、大引、根太、梁、桁、筋交、母屋角、垂木等に使用される部材が対象となる。乙種は主として圧縮性能を必要とする部分に使用するもので、通柱、管柱、間柱、床束、小屋束等に使用される部材が対象となる。
機械等級区分構造用製材における杉構造材の強度出現はE70、E90が多くを占める。E70の基準強度は目視等級区分構造用製材で最上位の構造用1級を上回る数値となっている。機械等級区分構造用製材基準強度に示されたどの段階で比較するかで差異は違ってくるが、E90と目視等級区分甲種1級で比較すると、圧縮28.2に対し甲種1級は21.6、曲げ34.8に対し27.0と開きがある。さらに乙種1級と比較すると引張、曲げで大きな差異があり、圧縮も甲種と同様の開きがある。
ただし、機械等級区分も目視等級区分も同じ杉構造用製材であるかぎり、それほど強度差があるはずはなく、目視等級区分の基準強度が低いのは、強度出現における安全率を反映したためである。対策としてはJASの機械等級区分構造用製材ではないが、使用する構造用製材を1本ずつグレーディングマシンで強度測定する方法がある。
実際に桧構造用製材を標準仕様としている都下の大手工務店では、色艶や香りを損なう人工乾燥を嫌い天然乾燥とし、さらに4面背割りを施し、最後に製材事業所でグレーディングマシンを使い、1本ずつ強度測定を行う。同社の桧構造用製材の適合強度はE90以上、また、含水率は20%以下を適合材とする。同社の新築木造住宅は全棟を許容応力度計算で強度性能を確認し耐震等級3、また断熱等性能等級5から6を標準としている。
国産材製材への新たな支援策も
国産材製材側は、非住宅木造建築だけでなく、4号特例見直しに伴い、木造住宅分野でも構造用製材以外の木質構造材に需要が移行していくことを強く危惧している。こうした業界の不安を受けて、林野庁は先ごろ、「令和6年度JAS製材サプライチェーン構築事業」を実施した。
このままでは内外産構造用集成材に代表される木質構造材に、国産材構造用製材のシェアが侵食されるとの危機感が背景にあり、事業実施主体の全国木材組合連合会も「改正建築基準法等の施行による木材需要及び木材流通構造への影響を踏まえ、樹種・生産品目などの地域特性を考慮したJAS製材等の適材適所への活用に向けて行う需給マッチングに資するモデル的な取組等を支援する」としており、地域の複数の製材工場が連携してJAS製材を核とした建築用材を地域の工務店などに供給する仕組みづくりを推進していく考えだ。
同事業の唯一の目的は国産材を原材料としたJAS構造用製材の需要減退懸念を食い止めることにある。
国産材構造用製材産業は、大手を中心にJASの機械等級区分構造用製材認定を取得しているのに対し、中小製材事業所はそうした認定取得体制が整備されておらず、4号特例見直しを契機に、需要格差が広がる恐れがある。特に無等級構造用製材を取り巻く需要環境は厳しくなることが予想される。
一般社団法人全国木造住宅機械プレカット協会が行った23年12月末時点での部位別構造材使用割合をみると、柱は国産材製材28.3%、外材製材3.4%、国産集成材36.3%(国産材以外の樹種も含む)、輸入集成材31.8%で、内外産構造用集成材が68.1%を占めた。
梁桁等の横架材は国産材製材16.8%、外材製材28.6%、国産集成材22.2%、輸入集成材32.3%で内外産構造用集成材が54.5%を占め、次いで外材製材(ほぼすべて米松)が続いていた。
これに対して土台は国産材製材57.2%、外材製材16.2%、国産集成材20.4%、輸入集成材6.2%で、桧が大半を占めるとみられる国産材製材が高い比率だった。
土台を除く木造軸組住宅等の木質構造材は既に過半を内外産構造用集成材が占めていることがわかる。さらに今後、国産材針葉樹人工林を原材料とした構造用集成材の大型設備投資が複数予定されており、国産材構造用集成材の供給能力は飛躍的に増加してくる。
JAS材採用の重要性
JASは唯一の公的木材品質基準だ。木造住宅建築に取り組む工務店はJAS適合構造材への切り替えと調達先の確保を真剣に考える段階に来ている。
製材のJAS(JAS1083)では製材の品質、強度基準だけでなく、人工乾燥や木材保存処理に関する基準も規定されており、製材の人工乾燥に関する含水率数値を明示できるのはJAS認定工場だけだ。また、木材の耐久性区分を示す数値表示もJAS認定が前提となる。
JASは1974年の住宅金融公庫の木造住宅工事共通仕様書にも品質基準として書き込まれているが、普及が遅れたのは木造軸組住宅等の担い手であるビルダー、工務店等がJASに対する関心が乏しく、木材産業側もJAS材のニーズがないことから、JAS工場認証を取得する機運が極めて低かったためだ。
こうした状況が変化し始める契機となったのは「公共建築物等の木材利用促進法」が制定され、公共低層建築物への木材活用が規定されてからだ。同法ではJAS認証材が大前提となっている。同法は10年後の2021年10月、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改正され、公共建築物から建築物一般への拡大を目指すこととなった。同法でもJAS構造材は必須となっている。
国も非住宅木造建築物を対象に「JAS構造材実証支援事業」、「都市木材需要拡大事業」を通じ、JAS材の普及に取り組んでいるが、これも非住宅木造建築に取り組む工務店にとっては必須の補助事業であり、JAS材への理解を高めていく必要がある(初出:新建ハウジング)。