代表的な和室造作部材は、敷居、鴨居、回り縁、長押、天井板、吊束、付鴨居などです。和室の中央に据えられる床の間も造作のひとつで、床の間回りにも、様々な造作部材があります。
※部材の解説につきましては伝統木造建築事典(井上書院)ほかを参照しました。
和室造作で大前提となることは、床面が畳敷きだということです。畳は和室の基本であり、畳の寸法が元になって、構造材、下地材、仕上げ材などの部材モジュールが規定されてきました。和室の構成は、畳から始まり、障子や襖、内壁、床の間などが配置され、さらに天井へと続く三次元の空間が基本であり、造作材の寸法も畳敷きの和室寸法を元に規定されます。
※畳の種類と寸法
メートル畳(192×96センチ)、京間(通称=本間、寸法呼称=六三間、191×95.5センチ)、中間(中京間、三六間、182×91センチ)、田舎間(関東間、江戸間、五八間、176×88センチ)。このほか通称三寸間は寸法呼称六一間で、大きさは185×92.5センチ、団地間は寸法呼称五六間で、大きさは170×85センチです。御所畳の寸法は212×106センチもあります。地域によって少しずつ寸法が異なりますが、長手(丈)に対し短手(幅)はほぼ1/2です。
※建具(たてぐ)
開口部に設けられた障子、襖、窓、ドア(室内ドア、玄関ドア)、戸などの可動部分と、それを支える枠を指します。玄関に用いられる引き戸や片開きドアなどを「出入り口建具」、建物の外周に設置された開口部を「窓建具」、門扉やフェンスなどを「外構建具」、障子や襖、室内ドアや戸などを「内部建具」と分類します。また、玄関戸、ドアや窓などを合わせて、「外周建具」と呼ぶこともあります。建具や下駄箱、収納、棚などの家具を取り付けるための工事が造作工事となります。
主な造作と造作関連部材の用語を紹介します。造作材は内法材(うちのりざい)ともいいます。柱の内側の寸法など部材の内側の寸法を内法といい、転じて敷居や鴨居、長押など柱の内側に組み込む造作材を内法材と呼ぶようになりました。
鴨居(かもい)
襖や障子などの引き戸を設ける場所の上部にある開閉のための溝のある横部材です。下部のものは敷居(しきい)といいます。溝が入らない場合は「無目(むめ)」と呼ばれます。欄間(らんま)に用いられるのは、見付けの薄い「薄鴨居」、軸組の構造部材を兼ねる「差し鴨居」などもあります。
※付け鴨居(つけかもい)
建具をはめる本来の鴨居に対し、下端(したば)を内法鴨居と同じ高さとし、せい(成=部材の高さ)をそろえて、塗り壁面に取り付けられる化粧の横材です。
※見付け(みつけ)
造作材や建具材などにおいて、見え掛かり部材の正面を指す言葉で、その寸法を見つけ寸法といいます。
※差し鴨居(さしかもい)
柱にほぞ差ししてある部材断面の大きい構造材を兼ねた鴨居です。
敷居(しきい)
鴨居と対を成す部材で、敷居上部は畳の厚さに揃え、床板から1寸程度上げて納めますが、ユニバーサルデザインが重視される今日、バリアフリーの観点から、歩行の安全性を考慮し、同じ高さとすることが望ましいかもしれません。敷居の溝は木表側に突き、摩擦を防ぐため、溝に埋め樫を施し、襖や引き戸の下桟(しもざん)に摺桟(すりざん)を付けます。
※下桟(しもざん)
建具の外周の四方枠のうち、最下部に水平に配された建具の構造部材のことです。
※摺桟(すりざん)
建具の滑りをよくするために建具の上下に取り付けた部材です。
[学校施設内に設けた和室。敷居・鴨居で和の空間が仕切られています]
長押(なげし)
住宅の座敷において、鴨居(かもい)上部四周に取り付けられる化粧材で、「内法(うちのり)長押」を指すことが一般的です。長押を設置する場所でいくつかの名称があり、柱の最下部の「地獄長押」、窓下の「腰長押」、天井と内法材との間に取り付ける「蟻壁(ありかべ)長押」、天井廻り縁の壁の下に付ける「天井長押」などがあります。
一般の木造住宅では、和室の減少とともに伝統的な長押の出番は非常に少なくなっていますが、社寺建築、歴史的建造物の改修などでは今も大型の長押が使われます。現在進められている東北地区の歴史的建造物の城門改修では、栗の5㍍長、40×20㌢(粗挽き)長押が使われるそうです。
※長押蓋(なげしぶた)
台形に長押挽きされた内法長押の上部と壁仕上げとの間にできた隙間をふさぐために、長押上部内側にはめられる小板です。
※長押挽き(なげしびき)
製品が台形になるよう製材することで、放射状に木取りすると製材効率がよく、柾目材をとりやすいといわれます。
[長押挽きされた製品]
回り縁(まわりぶち)
天井が壁に接する部分に設ける見切り部材です。広間では二重回り縁とすることもあります。洋風住宅内装でも見切り材として回り縁は多用され、壁面の化粧材の主力である壁クロスの納まりをきれいに仕上げる役割も持ちます。
天井と壁の間の隙間を隠す部材ですので、元々、化粧性の高い無地材が用いられましたが、建材メーカーでも木製や塩ビなど様々な基材を用いた商品を出しています。回り縁などの材料を付けず、壁や天井などをへこませることにより見切る方法を天井目透かし、壁目透かしと呼び、そうした建材商品も出ています。
吊束(つりづか)
上部の梁から、下部の横木がたわまないように吊るための束です。鴨居などで用いられ、鴨居と長押を吊っています。鴨居には外れないように寄蟻(よせあり)、篠差し蟻(しのさしあり)、地獄鈉(じごくほぞ)といった仕掛けを施します。吊束は和室の現しで使用されます。
[高さ、幅、奥行きと美しい直線が映える]
欄間(らんま)
室内外及び部屋境の上部に設ける部材で、意匠とともに、採光や通風を兼ねています。伝統構法では、設置される場所によって、縁側欄間、間超(まごし)欄間、書院欄間などがあり、塗り回し欄間、幕板欄間、板欄間、筬欄間(おさらんま)、菱組欄間(組子欄間)、障子欄間といった種類があります。
井波(富山県南砺市)は日本有数の木彫り職人の町として知られ、社寺の化粧部材彫刻発祥の地です。精緻な彫刻を施した欄間の最上は井波彫りといわれます。戦後は台湾、中国などで彫刻彫りした欄間も輸入されてきました。彫刻欄間のはじまりは桃山時代に遡ります。
近年は伝統的な和室が減少し、欄間を設置することは少なくなっています。
ただ、職人が丁寧に彫り上げ芸術性に富んだかつての作品は、アンティーク家具のような価値が認められ、店舗などの商業建築内装におけるインテリア、高齢者福祉施設ロビー壁面のオブジェなど、新たな活用方法も見出され始めています。
出入り口を締め切ったときでも室内換気に役立つことから、洋間でも欄間を用いることがあります。
[彫刻欄間をオブジェとして再利用した例]
框(かまち)
造作では床に段差がある場合、高いほうの縁に取り付けられる部材名称です(床框、縁框、上がり框など)。床の間や玄関など、床に段差があるとき、高いほうの床の端に取り付けます。取り付け場所によって呼び名が異なり、上がり框、床框、縁框などがあります。框は玄関造作として、伝統的な和風住宅に限らず、洋風住宅でも必要とされ、建材メーカーによる一体型の既製品も多数出ています。
建具でも、戸、窓、障子などの四周を固める枠部材を框といいます。縦框、横框があり、さらに上框、中框、下框に細分されます。また、畳の短辺の畳縁をつけない部分も框と称されます。
※上がり框
玄関床の上がり口の縁に水平に渡した部材で、摩耗しやすいため、ケヤキ、サクラ、タモなどの硬木を用いることが多いです。伝統的な和風住宅では、床に上がる際に、最初に目が留まる部位であり、大工の施工技術、美しい納まりが重要になります。
※付け框(つけかまち)
玄関ホール部(土間)と玄関壁の仕上げ材の見切りの役割を持つ化粧板で、通常、上がり框と同じ高さになるように施工します。玄関幅木とも呼ばれます。
※式台(しきだい)
玄関の土間と上がり框の中間に設けられた板敷きの部分で、床の段差が大きい場合に設置されます。
[ケヤキ普請の玄関。ケヤキの式台、上がり框、付け框。正面はケヤキ尺角の大黒柱、腰板にもケヤキを使用しています]
[洋風住宅玄関回り、クボデラ㈱施工]