国産材由来の大型構造用集成材工場が目白押し
はじめに
日本集成材工業協同組合(日集協)から2023年の集成材供給詳細が公表されました。最も注目されるのは構造用集成材に占める国産材樹種比率が35.1%と総供給の1/3を占めた点です。特に集成管柱に代表される小断面構造用(短辺が7.5 ㌢未満または長辺が15 ㌢未満のもの)は国産材樹種比率が57.2%と過半を占めました。
長年、原材料の大半を海外産樹種に依存していた構造用集成材ですが、国産材樹種の台頭は構造用集成材産業の大きな変化を示しています。
構造用集成材はこれまで海外産樹種が圧倒的な比率であった木材需要分野ですが、ここへきて国産材樹種を原材料とした大型構造用集成材工場投資案件が目白押しとなっており、さらに国産材樹種比率が上昇するのは確実で、欧州産樹種を主体に圧倒的なシェアを維持してきた海外産樹種を原材料とした構造用集成材は過渡期を迎えそうです。
とりわけ木造軸組用管柱分野では市場を席巻してきた欧州産ホワイトウッドからスギへの移行が進むと同時に、スギKD管柱が両者の覇権争いに巻き込まれる格好で苦戦を強いられると予想されます。4号特例が見直され構造検討の提出が義務化される25年4月の建築基準法改正もこうした木質構造材選択肢の変化に影響を及ぼすと考えられます。
小断面構造用集成材のスギ比率57%
23年の樹種別構造用集成材の国内生産量(上表)は日集協組合員が製造した数量ですが、国内生産のほぼすべてを網羅しています。
ホワイトウッド、レッドパイン(オウシュウアカマツ)、米松、米ヒバ、ロジポールパインといった海外産樹種を原材料に国内で集成材製造されたものと、スギ、ヒノキ、カラマツ等の国産材樹種を原材料に国内で集成材製造されたものに分類されます。この数量に海外で製造された輸入集成材の合計が総供給となります(下表)。
集成材は構造用と非構造用(造作用)に分かれ、構造用は化粧張り柱(ひき板を積層接着し表面に美観を目的として薄板を貼り付けたもので、横断面の一辺の長さが90㍉以上150㍉未満のものに限る)、小断面、中断面(短辺が7.5㌢以上、長辺が15㌢以上のものであって,大断面集成材以外のもの)、大断面(短辺が15㌢以上、断面積が300平方㌢㍍以上のもの)に分かれます。
樹種別構造用集成材国内生産の合計は135万立方㍍で、内訳は海外産樹種が77万立方㍍(前年比4.2%減)、国産材樹種が48万立方㍍(同7.9%増)、ハイブリッド(異樹種)が10万立方㍍(同6.2%増)となりました。直近4年間の推移は下記の通りです(単位1000立方㍍)。ハイブリッドは国産材樹種とベイマツの異樹種構造用集成材です。
23年 海外産材樹種773 国産材樹種476 ハイブリッド105 合計1,353
22年 海外産材樹種807 国産材樹種440 ハイブリッド 99 合計1,346
21年 海外産材樹種940 国産材樹種429 ハイブリッド113 合計1,482
20年 海外産材樹種935 国産材樹種367 ハイブリッド 99 合計1,400
海外産樹種は21年をピーク比で23年は17.8%減、これに対し国産材樹種はこの統計分類が開始された20年比で29.7%増と対照的な展開になっています。
海外産樹種を原材料とした23年の構造用集成材生産のうち、スプルース(ホワイトウッド)は19万立方㍍(同5.2%増)、オウシュウアカマツ51万立方㍍(同8.6%減)は、いずれも欧州由来の針葉樹で、合計は70万立方㍍(同5.2%減)と海外産樹種の90.9%を占めています。ちなみに20、21年には欧州由来の針葉樹を原材料とした国内産構造用集成材生産は87万立方㍍強を記録しています。
23年の輸入構造用集成材もロシアを含む欧州産針葉樹を原材料としたものが97%弱を占めており、構造用集成材の世界は欧州依存が依然として極めて高いですが、ウッドショックを契機に情勢は少しずつ変わっているようです。何よりも20年のピーク(91万立方㍍)比で輸入数量は50.6%減と半減しています。
ウッドショックが起きた20~21年、近年経験したことのない木材製品需給のひっ迫に直面し、価格高騰が誘引する格好で大量の海外産木材製品が輸入されました。構造用集成材もひっ迫感が顕著だった木材製品で、欧州産構造用集成材とともに国内で構造用集成材となる欧州産針葉樹原材料ラミナ(製材)も大量輸入されました。21年の海外産針葉樹を原材料とした構造用集成材国内生産は150万立方㍍弱、輸入が90万立方㍍強、合計240万立方㍍という空前の数量を記録しました。
しかしながら内外産構造用集成材の大量供給で市場は一気に需給を緩和させ、価格の反落を引き起こし、輸入元は大量在庫を嫌気し構造用集成材、海外産樹種原材料ともに新規輸入を著しく抑制しました。特に輸入構造用集成材は23年に45万立方㍍と20年比半減、欧州産針葉樹を原材料とした国内産構造用集成材生産も21年比で17.8%減となりました。
一方、国産材樹種を原材料とした構造用集成材ですが、23年生産は48万立方㍍と20年比29.7%増になりました。このうちスギは36万立方㍍(同5.1%増)、20年比では27.8%増、国産材樹種の75%強を占めています。協和木材、中国木材の両大手を筆頭に、スギを原材料とした小断面構造用集成材生産が本格化しています。
ウッドショックが杉集成管柱定着を促す
杉集成管柱の普及は苦難の道のりでした。既にホワイトウッド等の集成管柱が圧倒的なシェアを有していたこと、スギKD管柱も生産能力の増大で供給力を高めていたことが背景にあります。スギ集成管柱量産を開始した国産材製材大手は供給当初、販売が芳しくなかったことからスギKD管柱と同水準の価格に下げた経緯もありました。スギ集成管柱の周辺情勢が変わったのはウッドショック以降です。ホワイトウッド集成管柱代替でスギ集成管柱に切り替える動きが増え、市場定着を果たしました。
推定ですが、中国木材は日向工場で年間12万立方㍍規模のスギ集成管柱及びスギ中断面構造用集成材を製造、今秋、秋田の能代工場加工集成材棟が完成しJAS認証の取得を待って当面、年間5万~6万立方㍍のスギ集成管柱製造に入る見通しで、いずれ日向工場規模になると予想されます。協和木材は年間9万立方㍍規模のスギ集成管柱生産、ウッティかわいも年間8万立方㍍前後のスギ集成管柱・集成母屋桁角を生産しています。
新規ではパーティクルボード製造大手の大倉工業がスギ集成管柱等の量産に向けた設備投資を進めており、当面、年間3万立方㍍前後の生産規模になりそうです。注目はサイプレス・スナダヤで、北海道産トドマツを原材料とした集成管柱量産工場を釧路に建設します。当面、年間10万立方㍍前後のトドマツ集成管柱を製造する計画ですが、早い段階で2シフトに引き上げるとみられ、20万立方㍍規模の製造能力になるかもしれません。
新規の国産材を原材料とした構造用集成材量産工場の登場は、木質構造材の世界を劇的に変貌させると思います。これも推定ですが国産材樹種を原材料とした小断面構造用集成材は現状の43万立方㍍から、比較的早い時期に50万立方㍍規模まで生産量を増大させ、能力ベースでは65万立方㍍規模まで行くのではないでしょうか。
構造用集成材の強み
構造用集成材の利点はラミナと呼ばれる強度測定された挽き板を多重に積層することで、構造材断面寸法を増やしていくことができる点です。構造用製材の場合、断面寸法の大きな材料を人工乾燥(KD)する必要があり、平角のように梁せいが大きな構造用製材はコストが著しく増大しますが、集成材であれば30㍉厚のラミナを積層することで立方㍍当たりのコストを大きく変更させずに梁せいを大きくすることができます。
断面の大きな構造用製材は木材内部まで人工乾燥させることが難しいのに対し、構造用集成材は30㍉厚前後の挽き板段階で人工乾燥させるため、材料内部まで適切に人工乾燥することができます。欧米ではラミナないし単板を多重積層して断面寸法の大きな木質構造材とするという考え方が一般的で、日本の米松KD平角のような人工乾燥の考え方はあまりとりません。構造用集成材、構造用LVL、CLTは欧米産木質構造材の代表格といえます。
構造用集成材を構成するラミナは機械等級区分機により曲げヤング係数の全数強度測定が行われることで構造用集成材としての強度が定まります。そして構造用集成材は1本ごとに曲げヤング係数と曲げ強度が数値化されることで正確な構造計算を可能とします。
構造用集成材のもう一つの利点は、構造用製材では原材料としにくい曲がりのある丸太、いわゆるB材も活用できることです。また挽き板段階で欠点部位を除去しフィンガージョイントで縦継ぎ接合してラミナとすることで短尺材を活用でき、原材料歩留まりを向上させることができます。
ただし、伝統的な製材で重視される付加価値の高い造作・建具等の上級材や柱材等を取得することを想定した製材手法ではなく、原材料からの生産性を最優先しており、原材料からの付加価値を最適化する日本の伝統的製材とは方向性が根本的に異なります。
25年4月着工分から建築基準法の4号特例が見直され、4号建築物の大半が移行する新2号建築物では構造計算書類の提出が義務化されます。構造計算書類は建築基準法に基づく仕様規定でも可能ですが、これでは十分な耐震性能が確保できず、最高等級である耐震等級3を実現するには許容応力度計算に基づく構造計算が最適となります。
その際、木質構造材1本ごとに構造強度が明示されている構造用集成材、機械等級区分構造用製材、構造用LVL、CLT等の木構造材料であれば構造安全性に対する信頼度が高いのは言うまでもありません。
例えば、構造用集成材には1本1本、材面に書式に基づいてJAS適合を示すラベルが貼ってあります。そこにはJAS格付機関、製造事業者が属する団体名、品名(大・中・小断面等)、強度等級(曲げヤング係数E、曲げ強度F)、材面の品質、接着性能、樹種、寸法(短辺、長辺、材長)、使用接着剤等の種類、製造者名と所在地、連絡先などが記載されています。
一方、JASの機械等級区分構造用製材を除く構造用製材は、材料ごとに強度が明示されておらず、構造計算等を行うに当たっては、国が規定した「基準強度」に基づく計算を行う必要があります。「基準強度」の考え方は、木材のばらつきの幅を考慮し構造計算するに当たって安全性の高い数値となっており、強度表示構造材に比べ基準強度は低く設定されています。