三ツ星 建築の旅シリーズ Part1 第1回「京都の歩き方」


泉幸甫建築研究所 建築家  泉幸甫

1-京都の歩き方

春に木と書いて、椿と読む。今まさに椿の季節ですね。
僕は椿の花が大好き。建てた家の庭にたくさん植えてきた。
十年くらい前の日曜日の朝、朝刊を読んでいたら、椿の花が美しい京都のお寺を紹介していた。早速、出不精の奥さんを連れ出して、新幹線に飛び乗り、京都、東山山麓にある霊願寺というお寺へ行った。
このお寺にはいろんな種類の椿があるが、そのどれもこれもが絶品の美しさ!
その中でもあえて挙げると、白澄(しろずみ)椿だったか。椿が好きと言っても、あまり派手でない、この白澄椿のような楚々とした椿がいい。女優さんで言うと、梅ちゃん先生の頃の堀北真希。
この霊鑑寺は椿が好きな人だけでなく、作庭に興味のある建築関係者には本当に勉強になるお寺だ。

白澄椿

霊鑑寺で椿を堪能した後、せっかく京都は東山まで来たのだからと、北へちょっと上がった法然院へ。

京都ではお薦めの5本の指に入るランドスケープが素晴らしい絶景のお寺。
微妙に角度を振りながら奥へ奥へと、そして門に至る。

さらに進むと、境内にこのような蔵が。

よく見ると藏の下が浮いている。湿気防止何だろうけど、浮いている蔵って珍しい。それだけでなく堂々として清らかな美さ。
ここ法然院も椿が美しい。
高木の高いところに点々と小さな藪椿が咲いている。藪椿は花弁が5枚の5弁の椿、茶花の侘助も5弁。5弁の花には控えめな美しさの花が多い。

法然院の墓地には文豪、谷崎潤一郎の墓があった。
丁度行ったときに墓に覆いかぶさるように枝垂桜が咲き誇り、ヒャー、何とも死んでも谷崎らしい、凄まじい妖しさ。

谷崎の墓には「寂」と書いてあって、奥さんの松子と眠っている。
ちなみに近くには哲学者の九鬼修造の墓もあった。

法然院からさらに北に行くと、詩仙堂がある。

詩仙堂を出て帰り道、ひょいと見上げると、民家の蔵の窓が左官屋の素晴らしい仕事が何気なくあった。よく見ると梅の花の形をした窓だった。

という具合に、京都は歩いていると次々と素晴らしい景色、建物を見ることが出来る。
千三百年の文化が生み出す、この奥深い美しさとその集積の密度が何といっても京都の魅力だ。
霊鑑寺からちょっと南に下ると、南禅寺があるし、その周辺にもたくさんの見所がある。
ボーっとしていると何も見えてこないが、美の狩人になった目で歩くと、南禅寺から詩仙堂に至る道筋に、ここで紹介したように、お墓や、ツバキの花の他、道沿いの民家のちょっとした門やアプローチ、屋根の形、塀など、キョロキョロしながら歩いていると、もう一日では見切れないくらいの見所が山積している。
だから京都に行くときは今回紹介したように、東山の麓沿いだけ、というように地域を限って、自分の目で美しいものを探し出すつもりで行ったがいい。
建築関係の人は是非、日帰りでもいいから何度も何度も足を運び、日本建築の美しさを体得してもらえたらと思う。

他に京都でぜひ見て頂きたいものはたくさんあるが、あえて挙げれば、桂や修学院はもちろん、東福寺、高山寺の石水院、大徳寺を始めとした数々の茶室、そのようなお寺の一つをまずは目指し、その界隈を散策していただきたい。

執筆者のご紹介

泉 幸甫(いずみ こうすけ)

物はそれ自体で存在するのではない。それを取り巻く物たちとの関係性によって、物はいかようにも変化する。建築を構成するさまざまな物も同じように、それだけで存在するのではなく、その関係性によって、そのものの見え方、意味、機能は変化する。
だから、建築設計という行為は物自体を設計するのではなく、さまざまな物の関係性を設計すると言ってもいい。
そして、その関係性が自然で、バランスがよく、適切さを追求することができたときに、いい建物が生まれ、さらに建物の品性を生む。
しかし、それには決定的答えがあるわけではない。際限のない、追及があるのみ。
そんなことを思いながら設計という仕事を続けています。
公式WEBサイト 泉幸甫建築研究所

略歴

  • 1947年、熊本県生まれ
  • 1973年、日本大学大学院修士課程修了、千葉大学大学院博士課程を修了し博士(工学)
日本大学助手を経てアトリエRに勤務。1977年、泉幸甫建築研究所を設立、住宅、非住宅双方の設計に取り組む。1983年建築家集団「家づくりの会」設立メンバー、1989年から1997年まで代表を務める。2009年、次世代を担う若手建築家育成に向けて家づくりの会で「家づくり学校」を開設、校長として現在も育成活動に取り組んでいる。

1994~2007年、日本大学非常勤講師、2004~2006年、東京都立大学非常勤講師、2008年から日本大学研究所教授、2019年からは日本大学客員教授。2008年には2013年~16年、NPO木の建築フォラムが主催する「木の建築賞」審査委員長も歴任した。

主な受賞歴は「平塚の家」で1987年神奈川県建築コンクール優秀賞受賞、「Apartment 傳(でん)」で1999年東京建築賞最優秀賞受賞、2000年に日本仕上学会の学会作品賞・材料設計の追求に対する10周年記念賞、「Apartment 鶉(じゅん)」で2004年日本建築学会作品選奨受賞、「草加せんべいの庭」で2009年草加市町並み景観賞受賞、「桑名の家」で2012年三重県建築賞田村賞受賞。2014年には校長を務める「家づくり学校」が日本建築学会教育賞を受賞している。

主な著書は、作品集「建築家の心象風景1 泉幸甫」(風土社)、建築家が作る理想のマンション(講談社)、共著「実践的 家づくり学校 自分だけの武器を持て」(彰国社)、共著「日本の住宅をデザインする方法」(x-knowledge)、共著「住宅作家になるためのノート」(彰国社)。2021年2月には大作「住宅設計の考え方」(彰国社)を発刊、同書の発刊と合わせ、昨年度から「住宅設計の考え方」を読み解くと題し、連続講座を開催、今年度も5月から第二期として全7回の講座が開催される。

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