暴騰するカナダSPF2×4材

【米国市場へ貨車輸送されるSPF製材 ケベック州】

【米国市場へ貨車輸送されるSPF製材 ケベック州】

カナダ西部内陸産SPFディメンションの第3四半期(7~9月積み)日本市場向け供給について、四半期ベースで安定的に買い付けてくれる重要な顧客についても数量が40%削減される恐れがあるとの連絡がカナダの取引先からありました。また、第2四半期(4~6月積み)の出荷スケジュールも、全世界的コロナ禍の影響で物流ネットワークが大混乱しており、コンテナ確保難から供給が大幅に遅れているそうです。四半期ベースの顧客でさえ、大幅な数量削減となりそうなことから、スポットでの買い付けは事実上、相手にされそうにありません。

5月中下旬の米国市場価格1640㌦へ続騰

カナダ・ブリティッシュコロンビア州政府が発表した2021年5月21日時点でのカナダ西部内陸産SPF製材(№2&ベター)の米国市場価格は1640㌦(製材工場渡し、1000BM、ノミナル)に続騰しました。2020年平均価格は570㌦(同)、2019年の年間平均価格は372㌦(同)でした。シカゴ商品先物市場の直近価格は高値1700㌦台から1300㌦前後まで下落し、その後再反発するという荒っぽい展開になっていますが、全く、先が見通せない状況です。

米国では2×4などの規格化された製材は、シカゴ商品先物市場にも掲載され、原油や穀物などと同じように、商品先物市場で取引されていますが、ここでの5月13日先物価格は1800㌦(同)弱、20年4月の300㌦弱と比較して6倍になっています。変動幅が大きいといわれる原油や穀物の先物価格でも1年間で6倍にもなるような事態は聞いたことがありません。

跳ね上がった価格はいずれ修正下げの局面にさらされ、新たな市況の混乱が想定されるでしょうが、現在の状況は過去、誰も経験したことがない水準にあり、今後、どのように変化するか、北米の専門家も見通しも立てられなくなっています。ただ、カナダの製材関係者でさえ現状が極めて異常な状況であることを認識しており、商品先物市場の気配が先安に転換した場合、カラ売りなどの投機的な動きを強烈に増幅させることも考えられます。

日本向けJグレード1800㌦も

現在交渉中の日本向けSPF2×4~8(Jグレード)6月積み追加分は既に1500~1600㌦(C&F、1000BM、ノミナル、メーン港揚げ)での成約になっており、第3四半期(7~9月積み)の日本向け価格は1700㌦台から1800㌦台突入も予想されます。1700㌦としても昨年底値比で4倍以上の高値です。
現在、日本向け40㌳ドライカーゴのコンテナ運賃が前年比2倍(1本2400~2500㌦)に急騰しており、コンテナの確保を含め、海外市場への出荷は困難な状況で、買い手がコンテナを用意するのであればともかく、製材工場は貨車で出荷できる北米市場向けを優先することも考えられます。

日本向けとなるSPFのJグレードは、指標となる№2&ベターより2段階ほど上級なグレードです。北米市場でこれに近い上級材グレードはMSR製材(機械等級区分製材)やホームセンター向け製材ですが、無理に日本向けJグレードを作らなくても米国市場向けMSR製材で1700㌦(ミネアポリス市場渡し、1000BM、ノミナル)台まで跳ね上がっていること、また、北米市場向けにSPFのJグレードを販売したところ、ハネが出ず好評だったとの話もあり、日本向けJグレードに明確なプレミアムがつかなければ、Jグレードさえも北米市場に吸収されてしまう可能性があります。

輸入コスト14万円という現実

日本向けSPF2×4(Jグレード)7~9月積み価格を1800㌦(C&F、1000BM、ノミナル、メーン港揚げ)として、実材積での㎥当たり輸入コストは、為替110円で14万円(オントラ、㎥)相当になります。2×4戸建て住宅2階建てで1棟当たり20㎥のSPF製材を使用するとして、材料費は280万円、前年同時期推定は4万円(同)前後でしたから、㎥当たり10万円の材料費増額という計算になります。1棟当たり材料費が200万円増加するというのは、とても現実的ではありません。

【2×4住宅建築現場】

【2×4住宅建築現場】

影響力低下が顕著な日本向け需要

米国市場の高騰要因は、米国の歴史的な住宅ローン金利の下降に伴う旺盛な新設住宅需要にあります。また、米国向け製材主産地であるカナダの対米輸出の減少も影響しており、こうした基礎的な条件を受けて商品先物市場の投機的な動きを助長していると考えられます。
カナダは2020年、米国に年間58億300万BM(実材積換算係数推計約2014万㎥)のSPF製材を出荷しました。カナダSPF製材産地の主力はブリティッシュコロンビア州内陸地区です。20年のカナダのSPF製材総輸出は73億4299万BM(同2548万㎥)、米国市場比率は80%弱を占めています。

一方、カナダから日本に輸出されたSPF製材は20年実績で4億2861万BM(同150万㎥)、米国向け輸出の7%強でしかありません。カナダから中国に輸出されたSPF製材は20年実績で8億8464万BM(同307万㎥)と日本の2倍強です。今のカナダ製材産地にとっては米国市場がすべてであり、米加製材貿易紛争により、対米出荷分に10%近い輸入関税が賦課されても、米国市場ファーストなのです。

今のように歴史的な米国市場の価格高騰が起きている状況では、他北米市場以外のSPF製材市場は眼中にないかもしれません。それどころか、他市場に輸出することで、本来、米国向けに出荷していたら得られた利益を損なう(=機会損失)経営判断であると、株主から指弾され、下手をすると株主代表訴訟を招く恐れすらあります。
カナダを中心に米加から日本市場へ輸出される製材(SPF以外を含む)はかつて、700万㎥規模だったことから、米国市場と並んで最重要市場でした。しかし、現状の日本向け輸出数量では、かつてのような日本市場への位置づけは薄れています。それでなくても日本向けSPF2×4製材(Jグレード)は、仕分けに手間のかかる最上級グレードを必要とするわけで、付加価値の高さ以上に非効率と判断されかねません。

旺盛な米国新設住宅需要

米国の新設住宅着工戸数は、季節調整済み年率170万戸、日本の2倍以上の新設住宅需要が起きています。米国は1戸建て比率が日本と比較にならないほど高く、1戸建て床面積も200~250㎡とかなり広いこと、それに何といっても新設住宅の大半が木造(2×4工法)ですから、米国の2×4製材需要は日本と比較にならないほど膨大です。

1982~2000年生まれ(ミレニアル世代)比率は総人口の30%近く、住宅取得潜在需要は大きいといえます。少子高齢化と空き家率が増加している日本と対照的です。リーマンショック後、急増した新設住宅及び中古住宅在庫率は大幅に改善されている一方、新設住宅価格は33万㌦弱と過去最高値になっています。さすがに高すぎて住宅取得を断念する動きも指摘されていますが、リーマンショック前のような住宅投機をもたらすことも考えられます。

米国の住宅取得では、費用の大半を借入で賄います。ですから、住宅ローン金利には極めて敏感で、現状の歴史的な住宅ローン金利安は、中古住宅を含め住宅取得意欲を刺激します。ただ、先のリーマンショックでも、最新の金融工学を駆使した複雑な金融証券化が住宅バブルの大崩壊を招いた経験があり、行き過ぎた状況に対しては、連邦政府や政府系金融機関などが主導する形でブレーキがかかると考えられます。
現在、米国の住宅ローン制度は、最も信頼度の高い政府保証付きローン、次いで政府支援住宅ローン会社出るフレディマックおよびファニーメイに貸し出し基準に合致するコンフォーミングローンで65%を占めます。それ以外のローン(ジャンボローンなどのサブプライムローン)は35%前後のようです。今のところ、住宅ローン延滞率(90日以上)は低い水準ですが、新型コロナ感染症問題の影響もあるのか、徐々に高くなっているとの報告がではじめました。リーマンショック時には延滞率が9%前後まで急上昇しました。

カナダ産地の製材生産力低下

カナダ、特に製材主産地であるブリティッシュコロンビア州(BC州)内陸部は90年代末から2000年代初めに起きたロジポールパイン立木への虫害(マウンテンパインビートル)で数億㎥という致命的な被害をこうむりました。
同州に限らず、カナダの州有林は各州政府が管理し、年間許容伐採水準を定め、持続可能な森林経営を第一としています。しかしながら、大規模な虫害が発生したことで、時限措置として被害が拡大する前に立木を伐採促進する特別許可を出したことにより、BC州有林丸太生産が急増しました。
現在、その当時の過剰伐採を調整し、再び持続可能な森林経営とすべく、大幅な州有林伐採削減を実施しています。この結果、複数のSPF製材工場が丸太不足で永久閉鎖となり、BC州を拠点とする複数の大手製材事業会社は人工林資源が豊富な米国南部のサザンパイン地帯に投資をシフトし始めています。現在もBC州内陸の製材生産は慢性的な丸太不足に直面しており、生産能力に対する稼働率は70~85%で推移しています。

米国製材市場の価格高騰を受けて、欧州製材産地も米国市場向けを増やしています。ただ、供給規模は限定的で、加熱する米国製材価格を冷ます力はありません。なお、夏に向けて米加西部地域を中心に大規模な山火事発生による製材生産の低下という点も考慮しておく必要があります。

米国市場にとどまらず、世界最大の木材輸入国である中国の動向、また木材需要が伸びている欧州市場の動向も注視すべきでしょう。93年の米国製材市況高騰(ウッドショック)の時、世界の木材貿易において中国はほとんど影響力がありませんでした。今、振り返ると森林環境問題に端を発した93年の米国製材市況高騰では、SPF2×4~8(Jグレード)で600㌦(C&F、1000BM)程度でしたから、実に可愛い値上がりだったことになります。

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