歴史的な外材急騰、日本向け機会損失論も

日本へ出荷される外材製品の輸出価格が暴騰しています。

3月に提示された21年第2四半期(4~6月)積みカナダ産SPF2×4~8(Jグレード)価格は1000~1050㌦(C&F、1000ボード㌳当たり=ノミナル換算、円換算のコスト計算は後述します)となりました。
SPF製材が日本に輸出されて50年近く、かつて経験のない1000㌦突破という異常事態が起きました。20年第3四半期(7~9月)積み価格が500㌦(同)前後でしたから、一気に2倍に跳ね上がったことになります。

【東京港に在庫されたカナダ産SPF製材】

このカナダ産SPF2×4製材を筆頭に、北米産米松、米ツガ、米杉(ウエスタンレッドシダー)、米ヒバとすべての北米産針葉樹製材の日本向け価格が急騰しています。北米産広葉樹製材も同様の事態にあります。

米加産材だけでなく、日本向け出荷数量が多い欧州産製材、ロシア産製材、東南アジア産合板、ニュージーランドやチリ産のラジアタパイン製材も一本調子の日本向け輸出価格上昇となっています。

外材製材価格の急騰と供給減を受けて、国産材針葉樹製材への需要シフトも始まっており、国産材丸太・製材価格が反発しています。住宅商品供給数量の多い大手住宅メーカーは、外材由来の製材や構造用集成材から国産材へと仕様変更に動き出していると聞きます。

【杉2×4スタッド】

今回の外材価格の急騰が一過性のものなのか、それとも中期的な構造変化なのか、慎重に見極める必要がありますが、少なくとも短期で収束するとは考えにくくそうです。

米加産材輸入のベテランからは、既に起きている日本市場における米加産材の市場シェア後退が一気に進む恐れもあると指摘します。米加産米ヒバ半製品や丸太も原材料としてきた国産材製材・集成材大手は「粛々と米ヒバ製材から撤収する」と語ります。住宅産業では、地場の注文住宅系ビルダー・工務店を中心に、今春以降の新築物件用木材資材調達に影響が出て、建築が大幅に遅れるのではとの声も聞かれます。

原材料シフトの動きは今後、さらに増えてくると予想され、国産材原材料依存度が高まってくることは確実です。また、2×4コンポーネント・パネル事業者も国産材針葉樹2×4製材への原材料シフトを進めています。2×4住宅大手各社も、現状のSPF2×4製材コストでは、とてもではないが採算を確保できないとして、取引先コンポーネント工場に国産材化を指示しているようです。

つい最近まで、「杉などの国産材針葉樹2×4製材は、補助金がなければ価格競争力は全くないし、節の問題や強度面の低さから一般化するはずがない」と言っていたことを思い返すと隔世の感があります。

しかし振り返ってみると、SPFの登場以前は2×4工法用製材と言えば米ツガ、米松だけであり、SPFなど木ではなく草だと揶揄する関係者もいました。しかしSPF2×4製材の圧倒的な価格競争力と供給安定性を知るや雪崩を打つかのように樹種転換していったわけですから、国産材針葉樹への転換も何ら不思議ではありません。国産材針葉樹を原材料とする2×4コンポーネントのJAS工場も年々増加しています。

2×4住宅大手は、これだけ木材資材コストが急騰しては、木造軸組や鉄骨プレハブなどの非木造の住宅に価格面で対抗できないと危機感を強めていると聞きます。ザクっとした試算ですが、今回の木材資材コスト上昇により、2×4住宅の木材資材コストは、1棟で20立方㍍のSPF2×4~10製材を使用するとして、1棟当たり材料費が100万円前後上昇する恐れがあり、木造軸組住宅への価格競争力低下だけでなく、鉄骨プレハブ住宅に対しても価格優位性を後退させると考えられます。

【2×4住宅の施工】

さて、1000㌦となったSPF2×4製材の日本向け価格ですが、立方㍍当たりの想定輸入コスト計算はけっこう複雑です。まず1000ボード㌳当たりから立方㍍当たりに換算し直し、ノミナル(みなし寸法)をアクチュアル(実寸法)に置き換え、さらに輸入関税を加算し、港諸掛り・保管料および輸入元収益を加えます。すると立方㍍当たりアクチュアル換算㌦価格は約650㌦、為替を1㌦110円として円換算の輸入コストは立方㍍当たり8万円弱になります。

ちなみに20年第3四半期までの輸入コストは4万円弱でしたから、短期に輸入コストが2倍になったといえます。商品市場では、先物取引市場が指標となり、短期に価格が乱高下する原油市場がよく知られていますが、今回のSPF2×4製材価格変動幅はそれをはるかに上回るものです。

なぜ、こうした事態に陥ったのか。カナダ製材産地側は、日本にSPF2×4製材を出荷することは、今や機会損失そのものだと言い放っています。機会損失とは、それ以上に収益性の高い市場があり、その市場へ販売していれば得られたであろう利益を失うことを意味します。この場合、カナダ製材産地が米国市場へ出荷せずに日本向けに出荷した場合に発生する想定損失を意味します。実際は、今の日本向け輸出価格で産地が損しているわけではないのですが、もっと儲けられたのに日本へ輸出したばかりにそのチャンスを逸したといったところです。

米国市場の製材価格動向は、相対でのリアルな商取引に加え、商品先物市場(シカゴ)があり、この先物価格動向に影響を受けます。21年3月第1週のカナダ産SPF2×4製材価格は、日本向けJグレードより数段品質(グレード)が低い#2&ベター製材が工場渡しで1040㌦(1000ボード㌳当たり、ブリティッシュコロンビア州政府発表)を付けました。20年の平均価格は570㌦、19年の平均価格は372㌦ですから、北米市場では日本以上に大変なことが起きています。

添付のPDF↓は2018年以降のカナダ産SPF製材の米国市場価格および日本向けJグレード輸出価格、米松、米ツガ在来品目の日本向け輸出価格、OSBの米国市場価格、米加の日本向け製材輸出数量推移、米国の製材輸入推移などをまとめたものです。米国製材市場の価格高騰を受けて、日本向け出荷価格が一気に値上がりし始めたことがよくわかると思います。

米国市場価格、米国製材輸入等の推移.pdf

米国市場価格の変動で、SPF製材と同様に強烈なのは、針葉樹合板やOSBといった構造用面材です。特に19年平均が262㌦(カナダドル、1000平方㌳当たり)であったOSB7/16㌅厚の価格は21年3月第1週に1140㌦をつけました。19年平均価格と比べ4.4倍です。最も機会損失が顕著なことから、北米産OSBの日本向け意欲は著しく減退しており、大半の会社が日本向けを撤退し、北米の供給ソースはほぼ1社に絞られた状況です。OSBにはJグレードのような品質による価格差はありませんから、機会損失状況がより顕著に現れます。

【OSB】

米国市場の価格もここまできてしまえば天井を打つのは時間の問題と予想されますが、既に未知の価格領域に入っており、過去の経験に基づいて天井時期を見極めることが難しく、さらに天井を打った後の価格変動がどうなるのか、過去の経験と同様に今回も暴落することがあるのか、分からないことだらけです。

SPF2×4#2&ベターの工場渡し価格1040㌦(1000ボード㌳当たり)を元に、産地の立場に立って日本向け希望価格を考えてみます。

まず、日本向けのJグレードは#2&ベターに比べ2段階程度上級のグレードですから、このグレードによる価格差として100~150㌦(1000ボード㌳)は欲しいところです。さらに製材工場から輸出港までの陸送コスト、輸出港での積み込みコスト、輸出港から日本の港までの海上船運賃および荷揚げコストなどが加算され、これも100~150㌦(同)は見ておく必要があります。合計するとC&Fでの日本向け輸出価格は少なくとも1250~1300㌦(同)にしたいのではないでしょうか。

大幅値上げしてJグレードを1000㌦で日本向けに輸出しても、米国市場に出荷する場合と比べ250~300㌦の差が発生します。今、米国市場に出荷していれば得られたであろう利益を捨ててまで日本へ出荷する行為は、下手をすれば彼らの会社の株主から、会社に損害をもたらした廉で、経営陣に対する株主代表訴訟を起こされる恐れすらあるといわれます。

SPF2×4製材の日本向け価格の今後ですが、米国市場価格が引き続き1000㌦前後を維持した場合、5月積み以降の日本向け価格はさらに一段高すると予想します。既にカナダ産地から直接購入する2×4住宅メーカー各社は1000㌦を受け入れており、それ以外の関係者向けで産地が値引きしてくれる余地は一切ありません。

なぜ、米国市場で歴史的な価格高騰が起きたのでしょうか。需要面、供給面から簡単に説明します。まず、需要面では、トランプ政権から続く景気対策を背景とした低金利政策・住宅金利引き下げが影響しています。現在の米国住宅ローン金利は過去最低水準です。日本のように住宅取得のためのまとまった頭金を用意できないことから、資金借り入れの際の金利は住宅購買意欲に直結します。30年物固定金利で3%を割る過去最安値となっています。ただ、住宅ローン金利については日本のほうがはるかに低いですね。

少子高齢化が進行する日本と異なり、移民労働者を含め、若年層比率が高い米国では新築住宅取得ニーズは大きく、90年代末には数年にわたり年間200万戸を超える住宅が新設されたほどです。米国の住宅の多く、特に一戸建て住宅の大半は木造です。また、一戸当たりの床面積が日本と比べはるかに大きく、木材使用量が多いという特徴があります。

新型コロナ感染症対策としてバイデン政権による総額200兆円もの緊急対策が連邦議会で承認されました。この大型財政出動で消費全体が活性化され、今後の米国の住宅需要を後押しする要因ともなることが予想されます。

一方、木材供給面ですが、米国を最大市場とし、米国製材需要の1/3の供給を担っているカナダの製材供給力が大幅に低下しています。製材生産能力対比の稼働率は20年12月時点で70%強、米国も85%前後となっています。カナダ産地の製材生産の伸び悩み原因は原材料となる丸太不足です。

特に太平洋側に位置するカナダ最大の製材産地であるブリティッシュコロンビア州で丸太不足が深刻化しています。現在、SPF製材用丸太価格を左右する州有林立木価格(スタンページ)は100㌦(カナダドル、㎥)を突破、40㌦前後であった2010~11年の2.5倍に跳ね上がっています。絶対的な丸太供給不足と空前の製材需要増が原材料価格を突き上げている構図だと思います。

米国市場の製材価格高騰の影響は欧州産地にも波及しており、こぞって米国市場向けにホワイトウッド2×4製材の輸出を加速させています。おそらく今年の欧州産製材米国向け輸出は過去にない新記録となるでしょう。
米国市場への出荷が増加した結果、従来市場への出荷が減少します。最も減少の影響を受けるのが日本市場です。日本向け欧州産ホワイトウッド2×4製材(Jグレード)も立方㍍当たり500ユーロと1年前と比べ2倍近くに跳ね上がっています。日本のホームセンターで販売されている2㍍長弱の1×4、6材や2×4材は欧州産ホワイトウッドに多くを依存しており、供給不安が出ています。いつでも1丁298円や398円の定番商品としてホームセンターで販売されていたこれらの製品ですが、価格の継続は最早不可能です。

ホワイトウッドKD間柱、筋交等の需給逼迫も聞かれていますが、海上船運賃の急騰もあり、日本向け輸出価格はホワイトウッドKD間柱(芯去り)で400ユーロ(C&F、立方㍍)前後と前月比10%以上も値上がりしています。しかも世界的な海上輸送用コンテナ不足で納期の大幅遅れも慢性化しています。コンテナ不足を理由に日本向けオファーをスキップするケースも出ていますが、本当のところは米国向けに出荷したほうがはるかに儲かるからともいわれ、当然の経営判断とも言えます。産地側が契約残をキャンセルする動きも顕著になってきました。

このコンテナを筆頭とした世界の輸送能力不足の問題は、木材だけでなく、すべての物資の海上輸送に打撃を与えており、高い運賃を出さないとコンテナも確保できなくなっています。米国と中国の貿易紛争が激化したころから、この問題は急速に深刻化していきました。特に輸入コンテナのフレートは急騰しています。

【大型コンテナ船。北米材、欧州材も大半はコンテナで輸送される】

ここではカナダ産SPF2×4製材を中心に取り上げましたが、ほぼすべての外材製品や外材丸太が同様の価格急騰となっており、国産材針葉樹も需要のシフトを受け、強含んでいます。

米松丸太挽き製材各社は3月から製材価格を3000~6000円(立方㍍)値上げしました。4月以降、さらに多くの製材メーカーが値上げを打ち出してくると思います。一般材製材だけでなく、フローリングや羽目板などの内装仕上げ材、合板類なども同様に値上げが予定されているようです。

価格の上昇だけであればまだしも、気になるのは輸入製材・集成材・合板等の供給動向です。まずはコスト吸収をどうするのか考えなければなりませんが、建築用木材製品が確保できるのかという問題も出てきます。

住宅建築費に占める木材製品の比率はそれほど大きくありませんが、木材製品が入手できないことが原因で建築が遅れることも予想されます。昨年、新型コロナ感染症の影響により、中国で製造しているトイレなどの衛生機器部品が入手できなくなり、工事が大幅に遅れたことがありましたが、似たような問題も出てきそうです。

木造軸組プレカット大手は急きょ、工場隣接地に木材製品倉庫を確保し、備蓄を開始したそうです。同社は木材製品の直輸入比率が高いという特徴がありますが、今回は相当な品不足懸念を持っているようです。大方の木材流通事業者は昨年からの新型コロナ感染症問題に伴う建築需要の落ち込みで、むしろ木材製品在庫を絞ってきたため、ここへきての供給の落ち込みは痛手となっており、木材製品流通在庫にも不安が出てくるとみられます。

【国産材量産製材工場。桧KD土台角】

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