Appleなどが2億ドル規模の“Restore Fund” 設立へ
~気候変動を自然の力で解決する~
iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TVなどで世界のイノベーションを牽引し、App Store、Apple Music、Apple Pay、iCloudといった画期的なサービスを提供する Apple(=アップル、カリフォルニア州クパティーノ)は2021年4月15日、総額2億㌦規模の森林再生ファンド設立を発表しました(リリース全文は下記URL)
Appleとパートナー各社、初の試みとして “Restore Fund” をスタート – Apple (日本)
同社とそのパートナー各社が連携して森林を再生し、大気中の二酸化炭素など温室効果ガスの削減を目指す取り組みです。気候変動を自然の力で解決する、まさにSDGs時代、ESG投資の時代を象徴する画期的なチャレンジといえます。世界経済に大きな影響力を持つ同社の取り組みは、多くの人々が森林に注目し、森林の大切さを理解する契機となるのではないでしょうか。早速、多くのマスメディアが取り上げています。
二酸化炭素の排除は投資であるという考え方
“Restore Fund”(再生基金、以下ファンド)は、大気中から二酸化炭素を削減することを目指す森林プロジェクトに直接投資を行うことで、投資家は金銭的なリターンを得るというものです。新たに立ち上げた基金は、Apple、環境保護団体のコンサベーション・インターナショナル、投資銀行のゴールドマン・サックスとの共同プロジェクトで、大気中から少なくとも年間100万㌧の二酸化炭素を削減すること(これは乗用車20万台分の燃料に匹敵します)を目指す一方で、実現可能な財政モデルを提示することで、森林再生に向けた投資活動を拡大することを目的としています。
Appleは「自然界には、大気中の酸化炭素を排除する最高の手段がいくつかあります。森林、湿地、草原は、大気中から二酸化炭素を引き寄せ、それを貯蔵します。基金の設立を通じて、そこで金銭的なリターンを生み出しながら、二酸化炭素の影響を現実の測定可能な形で示すことで、私たちは将来的に、より幅広い変化を起こしていくことを目指しています。これが二酸化炭素の排除に向けた投資を世界中で推進することにつながります。私たちが目指すゴールを他者にも共有してもらい、資源を危機的な状況に置かれた生態系の支援・保護に投じてもらうことです」と述べています。
バリューチェーン全体のカーボンニュートラル実現へ
さらに「この取り組みは、当社のバリューチェーン全体を2030年までにカーボンニュートラルにすることを目指す多角的な対応の一環で実施されます。サプライチェーンおよび製品について2030年までに直接的に削減できる二酸化炭素排出は75%を見込んでいますが、残25%分については、この基金を通じて、大気中から二酸化炭素を削減することで解決しようと考えています。樹木は成長しながら二酸化炭素を吸収していきます。
森林破壊が今なお進行中であるにも拘らず、熱帯林は人類が過去30年以上にわたって石炭、原油、天然ガスなどを燃やすことで放出してきた量よりも多い二酸化炭素を蓄えることができると推定している研究者もいます。ファンド によるパートナーシップは、こうした自然界にある解決手段に着目し、これを事業者にとって魅力的なビジネスに仕上げる方法で拡大することを目指しています」
また、「森林に蓄えられた二酸化炭素を正確に定量化し、これを永久に大気中から締め出すために、ファンドでは専門組織によって開発・制度化された国際標準を用いています。そして、緩衝地帯や自然保護区の設定を通じ、生物多様性を向上させる “働く森林” の投資を優先することにしています」と述べています。
コンサベーション・インターナショナルは「 ファンドの共同投資者として、プロジェクトが厳しい環境および社会基準を満たしているか正しく評価します。基金の支援対象となる新しいプロジェクトが今年後半にも決定される予定です」と述べています。
ゴールドマン・サックスは「イノベーションこそが Apple の気候変動問題の解決へのアプローチの核であり、この取り組みに共に当たれることを誇らしく思います。投資活動において気候変動問題に目を向けること(climate transition)は喫緊の課題で、厳格で高い基準に基づいて、大気中から持続的に二酸化炭素を除去することを目的とした取り組みに寄り添うには、民間資本が必要なことは私たち全員が同意するところです。ファンドが、気候変動の影響に立ち向かっていくのに重要な、追加的な資本投資の呼び水になると信じています」と述べています。
Appleの森林に対する取り組み
Appleは、「ファンドは森林保護に長く関わってきた当社の取り組みの上に成り立っています。取り組み開始から3年になりますが、当社は当社製品のパッケージに100%責任ある方法で調達された木材繊維のみを使用すると共に、今日までに面積100万エーカー以上の森林の管理を向上させてきました。また、コンサベーション・インターナショナルと協力して、草原、湿地、森林を保護・再生する画期的なカーボンプロジェクトの先駆けを担ってきました」と述べています。
コンサベーション・インターナショナルは「自然そのものに投資することは、現在のテクノロジーに投資するよりも、二酸化炭素をさらに効果的に、そして早く取り除くことができます。気候変動による地球規模の脅威に世界が直面しているからこそ、私たちには二酸化炭素放出を劇的に削減できる革新的な新しいアプローチが必要です。ファンドを通じた画期的なアプローチが大きな違いを生み出し、世界中のコミュニティに新しい雇用と収入をもたらすことで、これが教育からヘルスケアまであらゆる活動の支援につながることに期待しています」と述べています。
Appleは2018年、コロンビア共和国で、コンサベーション・インターナショナル、同国の地方自治体ならびに環境保護団体と協力し、同国内の面積2万7000エーカーのマングローブ林の保護・回復に当たりました。マングローブ林は沿岸を守るだけでなく、それが生える地域のコミュニティの住人たちの暮らしも助けながら、さらには地上の森林の10倍もの炭素を吸収して貯め込むことができます。このプロジェクトはブルーカーボン(海洋生態系による炭素固定能)方法論の初の採用例として、マングローブの全生態(水面上および水面下)を厳密に評価し、気候変動の影響を緩和する上でのマングローブの価値を決めるに至りました。
Appleとコンサベーション・インターナショナルは、ケニアを拠点とする地域の環境保全団体とも協力し、ケニアのチュルヒルズ地方の低質化したサバンナの復旧にも努めました。こうした取り組みをアフリカ全土に広げ、各地方で低質化した放牧地や自然のサバンナにまで拡大できれば、大気中から毎年何千万トンもの二酸化炭素を取り除けるだけでなく、地域コミュニティの人々の生活や野生生物の保護にも貢献できると述べています。
Apple製品のパッケージに2017年から使用されている100%バージンの木材繊維は、責任ある方法で調達されたものです。2016年に iPhone 製品パッケージの大部分に木材繊維を採用して以来、最新の iPhone 12 ラインナップでは、製品パッケージの93%が木材繊維ベースの素材で作られています。これには iPhone のディスプレイを保護する繊維ベースのカバーも含まれ、今回初めて、標準的なプラスティックフィルムから置き換えられました。
また、「木材繊維の責任ある生産を支援するための直接的な行動にも出ています。The Conservation Fund および World Wildlife Fund(WWF) との提携を通じて、2015年以来、米国と中国で面積100万エーカー以上の “働く森林” の管理方法の改善に取り組んでいます」と述べています。
Appleを中心とした森林再生ファンドの設立はESG投資への明確な回答といえ、気候変動問題に対する企業の果たすべき役割を明確に示す取り組みです。このコラムでも何度か指摘させていただいておりますが、待ったなしの状況にある気候変動問題への解決策として、森林・林業・木材産業が極めて重要な存在であることは間違いありません。大気中の二酸化炭素の過半は森林が吸収源となっており、森林から生産された木材は引き続き製品内部に炭素を固定することで、二酸化炭素などの温室効果ガスを封じ込めます。
今後、さらに技術革新が進むことで、建築や生活用具といった従来型の木材利用にとどまらず、木繊維を活用したナノセルファイバーやフードテックビジネスに代表的ですが、木繊維を原材料とした新たな資材が普及することで、気候変動問題への新たな解決策が示されることを期待したいと思います。