住宅等への太陽光パネル設置義務化


東京都は2021年10月の環境審議会で、2030年カーボンハーフの実現に向けた「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)」の改正について諮問し、部会や検討会等での検討を経て22年8月に答申を取りまとめました。
今後、この基本方針を22年度第3回都議会定例会で審議し、22年度第4回定例会で条例改正案が提出される見通しです。これを踏まえて22年9月9日に「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」が公表され、特に一定の規模以上の住宅等供給事業者を対象とした太陽光発電設備の設置義務化が明記されたことで、大きな注目を集めました。小池知事はかねて住宅等への太陽光パネル設置義務化に関する考え方を表明しており、いよいよ具体的な政策への落とし込みが始まったといえます。

条例は25年4月からの施行を目指しています。一戸建て住宅への太陽光パネル設置義務化が実現すれば全国初となります。国内では京都府・京都市が22年に延床面積300㎡以上の新築・増改築時に設置を義務化したほか、群馬県では23年の予定で延床面積2000㎡以上の新築・増改築時に設置を義務化、川崎市は東京都と同様に設置義務化の検討を進めているところです。

欧米各国でも同様に太陽光発電設備による再エネの動きが進んでいます。EUは「欧州屋上太陽光戦略」を打ち出し、再エネ目標を2030年に45%に引き上げ、義務化に関するロードマップとして、26年までに250㎡以上の使用床面積を有するすべての新築公共、商業建物、27年までに250㎡以上の使用床面積を有するすべての既存公共、商業建物、29年までにすべての新築住宅に導入するとしています。
ドイツのベルリン市では23年1月から住宅への太陽光発電設備の設置義務化が開始され、屋根面積50㎡以上のすべての新築・既存建物にも適用されます。ドイツでは国内16州のうち7州で太陽光発電設備義務化を導入しているとのことです。
米国では、カリフォルニア州が20年に州内すべての新築低層住宅への設置義務化、23年にはほぼすべての非住宅建築物、低層以外の集合住宅にも義務化を拡大します。ニューヨーク市は19年に新築および大規模屋根修繕を行う建築物に対し、太陽光発電設備設置または緑化を義務化しています。こうしてみると東京都の施策も欧米先進国の動きに追随しているということがわかります。

9月9日に公表された「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」では、「気候危機とエネルギー危機への対応 TIME TO ACT-今こそ、行動を加速する時」とし、エネルギーの大消費地・東京の責務として、経済、健康、レジリエンスの確保を見据え、2030年カーボンハーフの実現に向け、脱炭素社会の基盤を早期に確立することが急務であると提言しています。

基本方針では、都内CO2排出量の7割が建物でのエネルギー使用に起因していること、2050年時点で建物ストックの約半数、住宅については7割が今後新築される建物に置き換わる見込みであること、一方、都内の住宅屋根への太陽光発電設備設置は限定的なこと、大都市東京ならではの強みである屋根を最大限に活用できること、家庭部門のエネルギー消費量は2000年度比で唯一増加しており一層の対策が必要なことなどを指摘しており、建築物への太陽光パネル設置義務化についての主要な動機付けとなっています。

都内の建築物総数225万棟のうち、太陽光発電設備設置割合は4.24%にとどまっており、見方を変えると都内の建物屋根には大きな発電ポテンシャルがあるということです。

同条例案では延床面積2000㎡未満の新設される中小規模建築物に対し「建築物環境報告書制度(仮称)」新設される見通しです。同制度には再エネ、省エネに関するとの基本的な考え方がまとめられており、都内での住宅等の供給延床面積合計が年間2万㎡以上の住宅供給事業者に対し、住宅等新築中小規模新築建物への再エネ、断熱・省エネ性能、再エネ設置等の義務付け・誘導を実施し、設置義務者である供給事業者が、注文住宅の施主等や建売分譲住宅の購入者等とともに、建物の環境性能の向上を推進していくとしています。

延床面積2000㎡以上の新築建築物、いわゆる大規模建築については「建築物環境計画書制度」を強化し、再エネでは太陽光発電等の再エネ設備、ZEV充電設備の整備義務、省エネでは断熱・省エネ性能の基準強化が盛り込まれています。

一方、既存建築物については、2000㎡以上の大規模なものに対しては、「キャップ&トレード制度」を強化し、再エネ利用拡大を促す仕組みの充実などのインセンティブ策などを推進、2000㎡未満の中小規模の既存建築物に対しては「地球温暖化対策公告書制度」を強化し、2030年目標の設定と達成状況の報告義務などが盛り込まれます。

新築、既存建築に共通して、エリア(都市開発・エネマネ)では「地域エネルギー有効利用計画制度」を強化し、ゼロエミ地区形成に向け、都がガイドラインを策定し、開発事業者が脱炭素化方針を策定、公表していきます。また再エネ供給では「エネルギー環境計画制度」を強化、都が再エネ電力割合の2030年度目標水準を設定し、供給事業者が目標設定や実績報告を行い公表していきます。

中小規模建築に対する太陽光パネル設置対象となりそうな年間供給総延床面積合計が2万㎡以上の事業者数は50社、供給数のシェア53%、年間棟数で約2万2800戸となっています(2019年値)。このため約半数の工務店等はこの義務化の対象外となりますが、東京都が再エネ等に関し明確な方向性を示すなかで、対象外だから何もしなくてよいということになるか疑問です。

再エネ設置基準(太陽光発電設備)は、設置可能棟数×算定基準率×棟当たり基準量で算出します。設置可能棟数のうち、太陽光発電設備の設置が困難な場合、設置基準算定から除外することができます。具体的には太陽光発電が設置不可能な屋根面積20㎡未満の狭小住宅です。算定基準率は日照条件、日影規制等の影響も考慮し都内の区域ごとに3段階(85%、70%、30%)に算定基準率を設定する方法、もしくは都内一律で85%とする方法が示されています。棟当たり基準量は1棟当たり2kWとしています。この基準量は災害時の生活に必要な最低限の電力を確保するものです。

例えば100㎡の新築住宅を年間200棟建築する供給事業者は年間延床面積合計が2万㎡以上となり太陽光発電設備の設置が義務化され、このうち屋根面積20㎡以上が設置可能棟数となります。この設置可能棟数に算定基準率と棟当たり基準量を掛け合わせ算出します。利用可能な再生可能エネルギーには太陽光のほか、太陽熱、地中熱等も可能です。

また、ZEV充電設備の設置義務化も盛り込まれており、駐車場付戸建住宅1棟ごとに充電設備用配管等、駐車場10台以上の場合は普通充電設備を整備するとしています。ZEV(ゼロエミッション・ビークル)とは、走行時に二酸化炭素等の排出ガスを出さない電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)を指します。

このほか、制度に該当する住宅等供給事業者は住まい手に対し環境性能の説明制度、都への報告制度、取り組み概要の公表制度も新設されます。省エネでは断熱、省エネ性能設備の整備義務等も盛り込まれています。

同条例案が25年4月に施行された場合、制度の円滑な運営と普及に向けた支援策が重要になります。その方向性としては、施主・購入者に対しては、リース、電力販売、屋根借り等の初期費用なしで太陽光発電設備を設置するサービスを提供する事業者の支援、リース料等の費用負担軽減、太陽光初戦設備の機器設置費用に対する補助制度の拡充、設置時の初期費用や付帯設備の更新費用負担への支援、住宅用太陽光パネルのリサイクル促進とリサイクル費用負担の軽減などが盛り込まれる見通しです。
供給事業者に対しては、制度施行に向けた着実な準備に対する支援・先行的取り組み辺保インセンティブなどが盛り込まれる見通しです。このほか、普及・啓発等の取り組みも打ち出されると思います。

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