【日光 庚申山、写真撮影:馬場美沙氏】
SDGSと脱炭素ビジネスとしての木造建築
最近、持続可能な世界の構築のために、SDGsということが言われています。これは持続可能な社会を実現するために設けられた目標とするべき17のゴールです。
この 17 のゴールの達成目標に対して私たちのできることから始めようという呼びかけです。
図−1 木造建築をつくることで達成できる項目は多い
私たちはこのままでは地球上の化石エネルギーと資源を使い果たして滅んでしまう可能性が出てきています。そして地球温暖化が進むのは人類が化石エネルギーを使いすぎて大気中に二酸化炭素を大量に放出しているからと言われています。人類が滅びるくらいならまだいいですが地球が滅びたら困りますね。他の生物に申し訳ないと思います。
昨年、眞鍋淑郎さんという方がノーベル賞をとりました。
真鍋さんの功績は CO2 が 地球温暖化の原因であると特定したということです。そこで、世界では地球温暖化の進行を食い止めるために脱炭素の声が高まり、さらには持続可能な社会実現のための「脱炭素ビジネス」というものが注目されています。そのなかで、前回、森林の機能として書いた「大気中の炭素を固定化する機能」が注目されるようになっています。「脱炭素ビジネス」としての「森林ビジネス」に関心が高まっているのです。
しかし、この森林に関わる「脱炭素ビジネス」については、日本はものすごく立ち遅れてます。こんなに森林があるのに、こんなに炭素固定に対してポテンシャルを持ってる国なのに、残念ながら今はまるでそれを価値にできていません。
その中で唯一と言っていい動きと言えるのが「J-クレジット制度」です。坂本龍一さんのmore trees(モア・トゥリーズ)もこのクレジット制度の代理店をやっています。森林の価値を「炭素固定」という視点で見える化する有効な方法の一つだと思います。
ここで、脱炭素を建築の話で考えてみましょう。森林は木材になっても炭素を固定してくれていますから木造建築の炭素固定量が気になるところです。住宅について計算された方いてそのデータを見てみましょう。住宅1棟あたりの炭素固定量は鉄筋コンクリート造や鉄骨造にくらべて4倍近くあって圧倒的に木造の炭素固定量が多いのがわかります。木造建築を「都市の森」という言い方をする方もいるほどです。(図-2)
図−2 住宅一棟あたりの炭素固定量
しかし、いくら木造建築を作っても、すぐに壊してしまってはダメです。木造住宅でも30 年とかで壊すのではなくてずっと使い続けていく。使い続けるっていう事が大事です。使い続けていけば、どんどんどんどん炭素は固定されていく。そういう木造建築をどんどん作って使い続けていけば木造建築は脱炭素に貢献できる。「脱炭素ビジネス」として木造建築が評価されるようになるわけです。
もう一つ、建築が関わる脱炭素ビジネスとしては、炭素の固定量だけではなくてその生産に関わる一次エネルギーの利用量、つまり二酸化炭素の放出量も重要です。建築を作る素材として木材も鉄もコンクリートもすべて重要です。それらは建築素材として使うために原料から加工しますが、それぞれの素材が加工する過程でどのくらいの一次エネルギーを使うかということです。これも計算された方がいるのでそのデータを見てみましょう。
アルミニウムはボーキサイトから加工して作られますが、その過程でものすごい1次エネルギーを使っています。鉄も鉄鉱石から精錬されて鉄として使えるように成るまでにそうとうな1次エネルギーを使っているのです。コンクリートはそれほどではないですが鉄筋と併せて使うことになるので問題です。それに比べて木材は圧倒的に少ないですね。
(図-3、4)
図−3 各種建材の製造時の二酸化炭素排出量
図−4 住宅一棟あたりの炭素放出量
木質系建築資材がその製造に圧倒的に1次エネルギーを使わないわけです。1 次エネルギーを使わないということは大気中に二酸化炭素を出さないということです。
加えて建築の生産の過程でどのくらいの1次エネルギーを使うかの計算もされています。こちらも圧倒的に木造建築の1次エネルギー使用量が少ないのです。だから木質系のものがいかに地球に優しいかということなのです。
炭素を固定することとあわせて、木造建築がいかに優れているのかということです。木材や森林の価値を語るためにも、ここはもっと強調していったほうが良いと思います。
世界が脱炭素に向かっているわけです。そのなかで木造建築が炭素を固定し、その生産の過程でも脱炭素に貢献するとしたら、そこをちゃんと評価できるはず。脱炭素ビジネスの土俵に木造建築は必ずのってくると思います。その時、木造建築の価値はますます上がっていくでしょう。森との関係の中で木造建築の価値が高く評価される時代がくるのです。