都市化が進み都市インフラを炭素の貯蔵庫に
連載第1回で、ネイチャーサステイナビリティ学術誌に掲載された「世界的な炭素貯蔵庫としてのビルディング」(ⅰ) に記載された図1について、地球上の今のような大気の構成を形作るうえで、森林が大切な役割を果たしてきたことを紹介しました(図1左側)。本題である右側の部分の話を始めます。
図1 大地の炭素プールの形成、破壊、潜在的な再形成に関係するプロセス及び大気中のCO2濃度の変遷
日本では人口減少ですが、世界規模では人口増加がまだ進んでいるので、2050年に人口93億人なった場合、必要なインフラ造成から発生する二酸化炭素の量は、全体の排出量の35%から60%位になるだろうと想定されるんだそうです(いまのままの鉄筋コンクリートで造成した場合)。それを建築物の90%を木材や竹にすることによって、排出量は半分にすることができる、としています。その上で木造建築物の上に炭素のストックができでます。木材がこの時期の主役になるかどうかばわかりませんが、主役になれる可能性はあります。
パリ協定でも木材の固定量に関心
管総理大臣が昨年2050年度までに温室効果ガスの排出量をゼロにするいい、今年に入ってから、4月22-23日に開催させたバイデン大統領が主催する気候サミットの前に、「2030年までに排出量を46%削減する」、と表明しました。
日本、温暖化ガス13年度比46%減 気候変動サミット開幕(日経新聞)
なぜ、30年の数値なのでしょうか?
気候変動枠組み条約を実施のための国際合意であるパリ協定(2015年成立)で、各国は2030年までの削減目標(吸収量を含めて)を表明するように、義務づけられているからです。
図2は削減目標の中の吸収量をどのように測定するかを示したものです。
2008年からの約束事項を定めていた京都議定書は、その第一約束期間((2008年-2013年)では、樹木の地上部と地下の部分に蓄積された炭素の量の増加量を測定して成長量とし、伐採された樹木はその時点で排出されたと想定されていました。その後、伐採された木材は木材として利用されている限り蓄積炭素量の中にカウントされるようになり(2014年からの第二約束期間から)、その考え方はパリ協定に引き継がれました。
森林が伐採された後、確り利用されて炭素が固定されているかどうかということが、温暖化を防止する上で重要な意味を持っている、と言うことが、国際条約の上でも確認されているといえます。
木材利用の二酸化炭素削減にむけての4つの意味
木材利用をすると二酸化炭素排出量削減になるというのには4つの側面があると指摘されています(ⅱ)。 ①木材利用の森林活性化効果、②木材利用の炭素貯蔵効果、③木材利用の省エネ効果、④木材利用のエネルギー代替効果です。順にみていきましょう。
木材利用の森林活性化効果
図3 人工林の令級別面積森林林業白書
まず、日本の森林の二酸化炭素の吸収量について見てみましょう。図3は日本の人工林を年齢別にみた表です。人工林の年齢は5年をひとくくりにした令級別に見るのが普通です。面積が一番多いのは51年から55年生までの10令級で、10令級以上の高齢林が半分以上を占めています。このままいけば、今後高齢林の比率はどんどん増えます。
図4 森林の構造発達段階に応じた機能の変化(藤森隆郎「林業がつくる日本の森林」より)
そこで、図4をご覧下さい。森林の様々な機能毎に森林の年齢に応じて機能が高まるか、低下するかを示した表です。
生物多様性の保全、水源涵養機能、表層土壌有機物量、森林生態系の炭素量など多くの機能は若齢期に一度機能が低下し、年齢が高くなるにしたがって機能が向上します。それに対して、純生産量(光合成で生産し呼吸により排出した残=炭素の固定量、木材の生産量)については「成熟した段階」で高まった後次第に低下します(□の部分)。それぞれの森林で何を目的に管理していくかは慎重に検討すべきですが、二酸化炭素の固定量を念頭に経営していく場合は、成熟した森林は一度伐採して(それを燃焼させたり、廃棄して腐朽させることなく)木材として利用すること、そして成長量の高い苗木を確り植えて造成することが大切です。
これが、木材利用することに拠る「森林活性化効果」といいます。
それでは次号から、木材利用の炭素貯蔵効果、木材利用の省エネ効果、木材利用のエネルギー代替効果について具体的に見ていきましょう。
(ⅰ) Galina Churkina等「Building as a global carbon sink」
(ⅱ) 外崎真理雄「木材資源の循環と地球温暖化抑制」地球環境シンポジウム講演論文集 (7)、13-19, 1999公益社団法人 土木学会