木材利用の二酸化炭素削減にむけての4つの意味
2050年「カーボンニュートラル」、日本中から二酸化炭素を排出しないという大目標が掲げられ、このサイトでは、木材利用すると二酸化炭素排出量削減になる4つの側面の議論を始めています。先月は、①木材利用の森林活性化効果、について説明しましたが、今月は、残りの、②木材利用の炭素貯蔵効果、③木材利用の省エネ効果、④木材利用のエネルギー代替効果について順番に説明します。
木材利用の炭素貯蔵効果
木材は、生きている樹木が光合成をして二酸化炭素を固定し、幹に炭素としてため込んだ樹幹を加工して造られています。放っておけば寿命が来た樹木は腐朽して再び二酸化炭素として大気中に放出されるのですが、樹木の一部を加工して建築物や家具などにして腐朽しないようにしっかり管理。こうして木材利用は炭素貯蔵して排出削減に貢献しているわけです。
それでは木造の家一軒にどれだけの炭素が固定されるのでしょうか(注1参照)。
A1 木材の絶乾重量(乾燥させて水分をゼロとした場合の重さ)の約半分が炭素の重量
A2 木材全乾比重が0.4だとすると、木材1㎥の中に固定されている炭素の量は、約200kg
B1 木造住宅1m2当たりの木材利用量は0.2㎡
B2 120㎡の木造住宅1軒当たり木材利用量は24㎥
そこでA2とB2から、木造住宅一軒当たりの炭素固定量はおよそ4.8トン(二酸化炭素に換算すると一軒当たり約18トン-CO2)となります。
1家庭当たりの年間の二酸化炭素排出量は、2.72トン-CO2/世帯(注2)だそうですから、木造住宅一戸には、その家庭が排出する7年分の総排出量が固定されていることになります。
最近木材の二酸化炭素固定量に関する民間企業の関心が高まっています。
図1は、後述しますが、林業経済研究所が5年前に林野庁の委託事業で作成した森林づくりによるCO2吸収量計算シートと木材利用によるCO2固定量の計算シートのダウンロード数の推移です。
5年間ネット上に掲載されていましたが、その間のダウンロード数の半分がこの1年間でダウンロードされています。
この計算シートには、使い方を示したガイドラインが公表されています。上の図をクリックすると入手できます。ご関心のある方は参考にして下さい。
ガイドラインには、木材利用によって算出された二酸化炭素固定量に応じて、図3のように分かり易い訴求の仕方が色々紹介されています。参考にして下さい。
図3 国産材マークで日本の森林で吸収された二酸化炭素を引き継いでいることを証明
材料代替による排出削減効果
木材を利用するとカーボンニュートラルに貢献する筋道は、上述の炭素の固定だけでなく、「材料代替効果」とよばれるものがあります。
建築物を構築する場合、多く利用される資材は、木材の他に、鋼材・アルミニウム材とかコンクリートなどがあります。それぞれの資材を生産するのにエネルギーを使い、その過程で二酸化炭素が排出されますが、木材を生産するためのエネルギーは、他の資材が高温で処理する過程があるのに比べて殆ど常温で処理されるので(高温乾燥処理の場合は違いますが)、他の資材より少ないことが解っています。
図4は林野庁のサイトに掲載されている、材料製造時の単位体積当たりの炭素放出量の比較表です(注4)。
鋼材をつくるときに発生する二酸化炭素は、同じ材積の人工乾燥木材の50倍です。
図4
図5は136㎥の住宅を想定して、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、木造の住宅を建てた場合に、材料を加工する時に排出する炭素の量を比較したものです(注1参照)。
家を建てるときに木造を選べば、材料を製造するときの温室効果ガス排出量は鉄筋コンクリートの4分の1、鉄骨造の3分の1で済むことになります。
これが、材料代替による排出削減効果とよばれるものです。
図5 住宅1棟(136㎡)を構成する主要材料の製造時炭素排出量の構造別比較
恒次祐子「目次利用と地球環境-気候変動について」山林誌2018年5月号より
木材利用のエネルギー代替効果
木材利用に拠る二酸化炭素排出量削減効果。最後に、木材のエネルギー利用によって、他のエネルギーを利用した場合の排出量を削減という、「エネルギー-代替効果」を説明します。
もちろん化石資源由来の燃料をつかっても、木材由来のエネルギーを使っても二酸化炭素を排出しますが、木材由来の二酸化炭素はその木材が成長する過程で大気から固定されたものであり、木材を収穫した後の森林がしっかり管理されていれば再びその森林が大気から排出される (図6参照)ので、「カーボンニュートラル(炭素中立)」だと言われることがあります。化石資源の場合、大昔に大気から吸収された二酸化炭素を現代に放出しているのに対し、木材由来のものは同じ時代に吸収固定されたものを排出しているので温暖化の影響がなく二酸化炭素を排出しても中立、というわけです。
木質バイオマスをエネルギーに利用する場合の注意点が二つあります。
(カスケード利用)
森林にある樹木は、森林のままでもやがて老齢化して腐朽すると二酸化炭素を排出します。木材を燃料としてエネルギーにすると化石資源を節約できますが、エネルギーのために若い木を切り出して燃焼させると、老齢化して腐朽するより早く大気に排出することになります。これではニュートラルだといえませんね。
図6にあるように木材を住宅などでしっかり使い、リサイクル・リユースしたあとに、それをエネルギー利用するということが大切です。それを「カスケード利用」とよびます。
(循環利用された原料)
前述のように木質バイオマス燃料の一つの特性は原料を伐採した後に、森林が生長して、伐採されて燃焼され排出した二酸化炭素が再び吸収されるということがあります。その意味で、原料由来の森林が「持続可能な森林経営がされているのか」が大切な視点になります。
原料の由来を確認する仕組みは、FSCやSGECなどの森林認証制度、合法木材やFITなどの林野庁ガイドラインに基づく用法などが普及してきました。図7を参照ください。
図7
バイオマスの燃料を利用する場合は、これらの制度を利用して、その原料のトレーサビリティをしっかり確認するようにしてください。
(注1)恒次祐子「木の利用と地球環境-気候変動について」山林誌2020年5月号掲載
(注2)環境省「平成31年度(令和元年度)家庭部門の CO2排出実態統計調査の結果」
(注3)林業経済研究所「企業による森林づくり・木材利用の二酸化炭素吸収・固定量「見える化」ガイドライン」(2016)
(注4)林野庁「木材利用に係る環境貢献度の定量的評価手法について(中間とりまとめ)」2009年