木材の耐久性について
はじめに
木材製品を使用する際、木材を長持ちさせることは大変重要です。使われる場所が完全に建物内なのか、土台や外壁のように外部と接する場所なのか、完全に外部で使用するのか、いわゆる使用環境で木材の耐久性能が変わってきます。
特に外部環境で木材を使用する場合、注意が必要です。木材が蟻害、腐朽、菌などにさらされ、耐久性能が低下しやすいからです。外部環境で木材を使用する場合、いくつかの対処の仕方があります。
最も一般的な措置としては、保存処理薬剤を木材内部に注入、または塗布する方法です。この措置については日本産業規格(JIS)に適合した保存処理薬剤を用い、日本農林規格(JAS)ないしAQ認定に定められた規則に従って木材の耐久性を向上させるものです。
一方、保存処理薬剤を使用しない方法もあります。樹種そのものの耐久性能が極めて高く、薬剤を用いないでも使用できる場合です。水に強く比重が高い熱帯産硬木広葉樹、イペ、ジャラ、ウリン、イタウバ、セランガンバツ、マニルカラなどが代表的な樹種です。これらの樹種は外部環境下でも10~15年程度の耐久性能を維持するといわれます。
防腐防蟻処理薬剤を用いず科学的な手法で加工を施し、耐久性能を向上させる方法もあります。代表的な材料はエステックウッド(窒素加熱処理)、アコヤ(アセチル化処理)、サーモウッド(200℃前後の特殊高熱処理)、ケボニー(天然性物質由来のフルフリルアルコールを木材に含浸させて木質内部でフラン樹脂を生成させる)などです。これらは20年前後、またはそれ以上の耐久性があるといわれます。
このほか、木粉と廃プラスチックなどを混合させた合成木材(人工木材)を使用する場合もあります。
上記のいずれの方法でも色褪せの原因となる紫外線への対応となると難しい面があり、対候性能を向上させるには、木材保護塗料を使用することも検討する必要があります。
JAS
製材に関する日本農林規格(JAS)は、木材の保存処理(防腐防蟻)だけでなく、木材の品質に関し基本となる法律です。寸法、欠点、グレード(格付け)、含水率、保存処理等すべてがここに規定されています。JASをしっかりと読み込むことが大切です。
日本農林規格等に関する法律 | e-Gov法令検索 JAS法
kikaku_itiran2-365.pdf (maff.go.jp) 製材の日本農林規格(JAS 1083)。これが重要です。
保存処理に関するJASの性能区分ではK1からK5まで分類されており、最も厳しい使用環境は水中等での使用を想定したK5となります。住宅等の土台に用いられる構造材で、防腐防蟻処理が必要な樹種は通常、K3相当以上の措置を必要とします。また、屋外に暴露されるような使用環境で木材を用いる際の防腐防蟻処理はK4とする必要があります。
JIS
JISでは木材保存剤に関する規定を行っています。ここではそれぞれの保存処理薬剤に関する試験方法も規定しており、かつて大問題となったホウ酸処理による防腐防蟻法では、JISの試験方法において、水溶性の容器で保存処理された木片を撹拌するとの規定があり、水溶性で溶脱するホウ酸処理は事実上、試験ができないということがありました。現在は参考として同規格組み込まれています。JISで認定された木材保存処理薬剤でないと、JASで使用できないといえます。
JISK1571:2010 木材保存剤-性能基準及びその試験方法 (kikakurui.com)
AQ認定
木材の保存処理についてはJASおよび日本産業規格(JIS)によって規格化され、その性能基準に合格したものをJASあるいはJISマークをつけて販売することができます。
一方、JAS、JISに規定されていない新しく開発された防腐・防蟻処理木材については(財)日本住宅・木材技術センターが優良木質建材として認証したものに対しAQ(優良木質建材等認証認定)マークをつけて販売することができます。AQ認定はJASの保存処理木材における性能区分と連動しており、外部環境に使用するJASのK4はAQ認定の1種、JASのK3はAQ認定の2種となり、通常、AQ認定の1種はJASのK4相当と表現します。
Microsoft Word – AQ002品目一覧190927(G3W1追加).doc (howtec.or.jp)
熱帯産硬木広葉樹
多くの熱帯産広葉樹(ハードウッド)硬木は、デッキ等の外部環境において、保存処理薬剤を使用しなくても長期の耐久性能を発揮します。
主な樹種としては、セランガンバツ、ウリン、イタウバ、イペ、マニルカラ、クマル、グラピア、アマゾンジャラ、アピトンなど。いくつかの樹種はワシントン条約で貿易が規制されており、注意が必要です。共通して南米アマゾン流域、東南アジア、アフリカ等で伐採加工されるため、原産地証明、産地国の出荷証明等のエビデンスを確保することも重要です。
針葉樹でも、青森ヒバ、米ヒバ、ウエスタンレッドシダー(米杉)、豪州サイプレス、国産針葉樹では桧心材、コウヤマキ、アスナロなどのヒノキ属樹種は耐久性が高いことで知られています。杉も赤身が張った心材は外部環境でも優れた耐久性能を発揮するといわれます。
それぞれの樹種については、耐久性等の基本的な物性を理解して使用することが大切です。
アコヤ
アコヤはラジアタパインを原材料とし、アセチル化という独自の手法で耐久性を高めた木材です。オランダで製造され、池上産業が日本の総輸入元となっています。
屋外で50年、地中および淡水中で25年間という耐腐朽菌耐用年数がメーカー保証されています。また、アコヤを使用したバルコニー等は適切なメンテナンスにより、70年間のサービスライフが得られるものと、イギリス建築研究財団BREにより評価されています。
そのメカニズムは、食酢の成分でもある酢酸の一種「無水酢酸」を高温で木材と反応させ、木材組織の細胞壁内の“水酸基”を“アセチル基”に置き換える処理のことです。アセチル化処理をされた木材は、木材細胞壁の疎水性を極めて高くし、腐朽菌の酵素分解能力を抑制させることで、木材の耐腐朽性能を飛躍的に高め、高耐久性を得ると同時に木材の含水率の変動を抑え、木材に優れた寸法安定性能を与えています。
アコヤ 総輸入販売元 | 池上産業株式会社 (woodwise.jp)
エステックウッド
エステックウッド(Sendai Technologies Wood)は、宮城県で生まれた国産の特許技術「窒素加熱処理」で加工された熱処理木材です。窒素加熱処理による画期的な効果により薬剤を一切使用せず、環境負荷が少ない無公害木材でありながら耐朽性・耐水性・保温・防腐・防虫・形状安定性に優れた特性を持ち、天然埋木(うもれぎ)のような気品と風格で、個性に応じた演出が可能な天然新素材です。
江間忠木材グループが製造販売しています。特に杉などの耐久性向上を主眼としており、耐久性に不安がある材料を外部環境で使用することを可能にしています。
エステックウッドとは | 天然熱処理木材 エステックウッド総代理店 江間忠木材 | エステックウッド総代理店 江間忠木材 (st-wood.jp)
サーモウッド
サーモウッドは200度前後の高温と蒸気で木材の耐久性を向上させる技術です。北欧で開発され、日本では越井木材工業が「コシイ・スーパーサーモ」として製造販売しています。薬剤を使用せず高い寸法安定性と耐久性を実現しています。北欧で誕生したサーモウッド技術を日本の気候でも使えるよう改良し様々な地域産材・間伐材が利用可能ですAQ認証取得商品でもあります。
サーモウッド│国産材を使える「コシイ・スーパーサーモ」│越井木材工業株式会社 (koshii.co.jp)
ケボニー
ケボニー化処理とは、天然性物質由来のフルフリルアルコールを木材に含浸させて木質内部でフラン樹脂を生成させるものです。重く強く硬くなります。ノルウェーで開発された木材耐久性向上、寸法安定性技術です。日本ではバルセロナトレードが総輸入代理店となっています。
FOREVER WOOD JAPAN | FOREVER SUGI FOREVER HINOKI
WPC
WPCはウッド・プラスチック・コンビネーション(Wood Plastic Combination)の略で、木材とプラスチックの複合体です。WPCの製造は、木材にモノマー(プラスチックの原料で液状のもの)を重合剤(硬化剤)とともに注入し加熱することにより、木材中の間隙に満たされたモノマーが硬化することによって製造されます。
WPCは、木材とプラスチックの両方の性質を合わせ持つことになり、その特徴としては、木材の美観を損なうことなく木材よりも力学的強度、寸法安定性、耐候性、耐火性、耐薬品性等が向上され、特に、耐摩耗性に優れています。WPCのこれらの特徴から、その用途としては、建築用としてフローリング、階段の踏み板、手すりなどに使われるほか、家具、ボートのオール、アーチェリーの弓、スキー板、鍵盤、ナイフの柄などにも使われています。また、外国では、バグパイプ、枕木ゴルフクラブのヘッドなどにも使われています。大建工業がWPCのトップメーカーです。
DAIKENの技術 WPCテクノロジー|DAIKEN-大建工業
このほか、樹脂等を含侵させることにより、木材を硬化する技術もいくつかあります。
最後に主な木材の耐久性に関する区分を添付します。この耐久性区分はあくまで心材における区分であり、辺材については樹種を問わず、2~3年で腐朽してしまうといわれます。
紫外線の影響で木材が変色する退色、対候性については、富山県林業試験場が行った主なオイル系塗料による実験結果を添付します。