木の哲人講座~造作材~ はじめに

[造作材加工 クボデラ㈱首都圏サービスセンター]

木造住宅をはじめとした建物工事の工程は、大きく分けて、仮設、基礎、墨付け・刻み、架構、屋根、左官、内部仕上げ、建具、外部仕上げ、外構の手順で進めていきます。

こうした工程のなかで、仕上げに関する工事、床、壁、天井、階段、框などの仕上げをはじめ、窓、戸、障子、襖といった建具を取り付けるための部材を設置する工事を造作工事と呼びます。造作は構造を担わない内法(うちのり)、天井など表に見える部位を指し、建物の上棟以降の仕上げ工事となります。

部材を現しで使用する部位ですから、かつては造作大工の腕の見せ所で、特に垂直、水平、直角を正確に出すことが造作工事の基本といわれてきました。現存する歴史的な木造建造物でも、今のような機械による精度が出せないなか、道具と大工の腕一本で、木材に対する深い知識が反映された美しい造作の仕上がりの造作を見ることができます。


[和室と洋間を隣接させた住宅]

近年は住宅工法が大きく変化しています。伝統的な和風建築が減少し、柱を壁面に現す真壁工法が少なくなり敷居鴨居長押回り縁といった伝統的な和室造作材を使用することも減っています。造作部材だけでなく、美しい意匠を現す役柱床柱大黒柱なども和室の減少とともに、使用頻度が大幅に減少しています。

*真壁(しんかべ) 外壁・内壁のつくり方で、柱や梁・桁等の横架材を現しにして、その内法の壁を仕上げとする構法。木部の雨除けとして、水切り板、霧除け、板庇、妻壁庇などを設け、構造材が空気に触れているため乾燥しやすく、維持管理が容易で耐久性も高いと言われます。また、構造材がそのまま意匠的な要素となります。

*大壁(おおかべ) 柱、梁・桁などの構造材を下地ボード等で隠してしまう構法。人工乾燥された構造材、構造用集成材、構造用LVLなどの供給力が充実したことで、未乾燥構造材に見られたプレカット工程や施工後に、木材の乾燥が進み構造材等が形状変化してしまう問題が改善され、現在では大半の木造軸組住宅が大壁工法となっています。


[真壁の例 麟鳳閣=愛媛県有形文化財。慶応4年(1868年)建造。新谷藩の藩政評議所、謁見所として使われました。明治期には旧新谷県庁舎、現在は小学校施設。木造平屋建て、入母屋造り、桟瓦葺]

製材工場は、元来、造作や建具といった無地の材料を用いた価格の高い製材品(役物製材)が、丸太木取りをはじめ、製材の根幹でしたから、こうした部位の需要減は非常に厳しい現実です。

森林を育てる人々も、長い年月をかけて高品質の役物製材用原材料が取得できるよう、枝打ち作業をはじめ、下草刈り、除伐、間伐と丹精込めて森林を手入れしてきましたから、同様に役物製材需要の減少は大きな痛手で、丸太価格低迷の最大要因となっています。丸太価格の低迷は継続的な山林の手入れにも影響を及ぼしています。


[天然木曽桧枠材。役物不振の中でブランド力が強い]

我が国は、戦後復興から高度成長期にかけ、急拡大する住宅需要に対し、数的な充足を最優先した政策を進め、住宅部材の工業化を急速に進めてきました。内装材を主力とする大手建材メーカーの登場を促すとともに、プレハブ住宅や2×4工法住宅の台頭、在来木造住宅の工法も、伝統的な真壁工法から大壁工法が急速に発展していきます。

大壁工法の台頭と合わせ、住宅の洋風化も進んでいきました。洋風化におけるもっとも顕著な変化は、畳敷きの部屋がめっきり減少し、フローリングが本格的に使われ始めたことでしょう。

また、壁・天井面の仕上げは木からクロス貼りに変わっていきました。和室の減少とともに襖や障子が使われなくなり、伝統的な敷居や鴨居の需要が大幅に減少していきました。窓などの開口部は木製からほぼすべてがアルミサッシと一体型のシステム造作・建具に変わりました。


[洋風住宅内装 クボデラ㈱施工]

このように内装部位のほぼすべての材料が劇的に変化しました。内装材は工業製品を量産し安定供給する大手建材メーカーが主たる担い手となり、大工職人の技術に依存しない施工性に優れた内装建材が開発されていきました。それに伴い、造作材料も著しく多様化しています。こうした変化には、大工等の職人の減少と高齢化も関係しています。

木質内装材産業も住宅の洋風化に呼応し、床材を筆頭に、壁面材天井材ケーシング各種枠材など幅広い造作分野に取り組んでいます。特に国産材の時代を迎え、各地で国産材針葉樹側材を原材料とした内装仕上げ材製造に挑戦しています。


[圧縮加工で耐摩耗性能を高めた杉無垢床材]

近年は大手建材メーカーでも、木材回帰の動きがみられるようになってきました。床や壁で本物の木材を積極的に使う取り組みです。また、アルミサッシの結露問題もあり、高性能木製サッシを採用するケースが増えています。

こうした変化は、自然素材である木材特有の温かみと断熱性、透湿性に優れた木材の室内空気清浄化機能や湿気吸放出機能などが評価されたものだと思います。そして何よりも、木に囲まれた室内空間を人々が望んでいることを反映した動きだと感じます。

当社もこうした変化を受け止め、本物の木を使った新たな造作材商品の開発に取り組んでいく所存です。


[杉無垢材を内装材に使用した森林組合事務所棟]

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