建築物の断熱等性能等級改正と省エネ基準適合義務化

建築物の断熱等性能等級改正と省エネ基準適合義務化

~建築物の断熱性能が大きく変わります~

目次

はじめに

政府は2022年4月22日、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」、いわゆる建築物省エネ法案を閣議決定しました。この閣議決定には、住宅を含むすべての新築建築物に25年度から省エネ基準適合を義務付けすることが含まれます。今国会に提出され審議の後、成立を目指します。

また、22年4月1日、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(住宅品質確保法)が一部改正され、断熱に関する新たな上位等級として、断熱等性能等級5と一次エネルギー消費量等級6が新設され、施行されました。この改正では22年10月、さらなる上位等級として、断熱等性能等級6および7が追加新設されます。

建築物省エネ法と住宅品質確保法は連動しており、改正建築物省エネ法が成立した段階で、25年度からすべての新築建築物を対象に省エネ基準適合義務化が施行されます。義務化される断熱等性能等級はおそらく現行の等級4(16年基準)に近い基準となる見通しです。関係者の中には現行の等級4が、法改正により等級1となる形で断熱性能に関する基準が再構築されるとの指摘もきかれます。

従来、断熱等性能等級は法律の規制がなかったことから、無断熱の断熱等性能等級1も可能でしたが、25年度以降、無断熱は認められなくなります。さらに断熱等性能等級2(1980年基準)、同3(1992年基準)も認められなくなる可能性があります。

建築物の断熱性能向上に向けた取り組みは着実に進んでおり、既に中大規模の非住宅(延床面積300㎡以上)は省エネ基準適合が義務化されていますが、この方針がすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務化されるとなると、特に住宅建築における重大な変更です。もはや、客観的な断熱等級数値に基づく住宅性能の向上は大手住宅会社だけでなく、全てのビルダー、工務店が取り組まなければならない課題です。

建築物省エネ法案について

国土交通省では、目下のロシアによるウクライナ侵攻も考慮してか、「原油価格等の高騰対策が急務となる中、住宅の省エネ化促進など経済構造の転換が必要になっていること等も踏まえ、今国会に提出することとした」と述べています。

改正法案の立法化自体はかねて進められてきたものです。国土交通省はその背景として、国の公約である2050年カーボンニュートラルの実現、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向け、エネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における取組が急務となっているとしています。

また、温室効果ガスの吸収源対策の強化を図るうえで、木材需要の約4割を占める建築物分野における取組が求められており、建築物分野における木材利用のさらなる促進に資する規制の合理化などを講じることも盛り込まれました。この項目が意味するところは、建築物の木造化を推進することで、使用される木材製品内部で引き続き長期にわたり、炭素を貯蔵する機能があることを重視したものです。
建築物省エネ法で木材利用の促進が明記されたことは画期的といえます。

建築物省エネ法案では、省エネ対策の加速、木材利用の促進を大きな骨格としています。
省エネ対策の加速では、①として、省エネ性能の底上げ・より高い省エネ性能への誘導を掲げ、具体的には全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合義務付けることを筆頭に、トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充、販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進を目指します。
省エネ基準適合義務化に関しては十分な期間を確保するとあります。トップランナー制度に関しては、ZEH、ZEB水準へ誘導を目指します。

また、②として、ストックの省エネ改修や再エネ設備の導入促進を掲げ、具体的には住宅の省エネ改修に対する住宅金融支援機構による低利融資制度を創設、市町村が定める再エネ利用促進区域内について、建築士から建築主へ再エネ設備の導入効果の説明義務を導入、省エネ改修や再エネ設備の導入に支障となる高さ制限等の合理化を目指します。

既に改正建築物省エネ法(19年5月改正)において、新築住宅に対しても21年4月から建築士による省エネ説明努力義務が規定されており、あわせて300㎡以上2000㎡未満の中規模非住宅建築物に対しても、従来の届け出義務が適合義務に改正されました。このほか、トップランナー制度の適合基準が注文戸建て住宅、賃貸住宅(アパート)に拡大されたところです。
閣議決定された今回の法案では、省エネ基準適合義務がすべての新築住宅及び300㎡未満を含むすべての非住宅建築物も対象となります。

木材利用の促進では、①で防火規制の合理化を掲げ、大規模建築物について、大断面材を活用した建築物全体の木造化や、防火区画を活用した部分的な木造化を可能とする、防火規制上、別棟扱いを認め、低層部分の木造化を可能にしていきます。

これにより、メゾネット住戸内の部分(中間床、壁、柱等)の木造化が可能になるとともに、従来、高層部分と隣接する低層部分に延焼を遮断する壁等を設置することで低層部分の木造化が可能になります。別棟扱い(別棟解釈)はかねて、木造建築物延床面積に対し、延焼を遮断する部分を設置することで複数に分割することでそれぞれの木造建築物の延床面積を小さく解釈することにより防耐火規制を軽減させる手法として用いられてきましたが、さらに柔軟な別棟扱いが可能になります。

また、②で構造規制の合理化を掲げ、二級建築士でも行える簡易な構造計算で建築可能な3階建て木造建築物の範囲の拡大等を目指します。3階建て木造建築物の対象高さも従来の13㍍以下から16㍍以下に緩和されます。
その他として、省エネ基準等にかかる適合性チェックの仕組みを整備等も盛り込まれています。

住宅品質確保法一部改正について

住宅の品質確保の促進等に関する法律で断熱等性能等級および一次エネルギー消費量等級が22年4月から一部改正され、それぞれに上位等級が設けられました。下表は東京都等の6地域での性能要求値です。UA値(外皮平均熱貫流率)とは断熱性能を示す数値でw/㎡・Kで表します。

一次エネルギー消費性能(BEI=Building Energy Index)とは、新築される建築物において、設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量以下であれば省エネ基準に適合していることを指します。設計および基準一次エネルギー消費量計算では家電等を除いた数値を元にします。計算方法は下表にあります。

断熱等性能等級1は無断熱(法規制なし)、等級2はUA値1.67(1980年基準)、等級3はUA値1.54(1992年基準)、等級4はUA値0.87、BEI1.0以下(2016年基準)で、従来はこの断熱等性能等級4が最高等級でした。

しかしながら、実際に等級4で施工された住宅に居住しても冬の寒さが問題となり、断熱性能の低い居室ではヒートショック問題も指摘され、国は、住宅においてはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という新たな断熱等性能基準を設け、省エネ性能の向上を推進しています。このZEH基準相当が22年4月から新設された上位等級で、UA値0.60、BEI0.9以下(低炭素基準)となります。また、22年4月から一次エネルギー消費量等級6が新設されました。これはBEI0.8以下、ZEH基準となります。

ZEHに関しては、これを推進していくため、国も手厚い助成事業を継続しており、今年度も「令和4年度3省連携事業 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス推進に向けた取り組み」を実施、新築住宅に対し下表のような公的補助が実施されています。3省とは経済産業省、国土交通省、環境省で、それぞれが予算組を行い、ZEHの推進を図ります。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001474252.pdf

22年10月からの住宅品質確保法改正について

22年10月からの改正では、断熱等性能等級について、さらなる上位等級である等級6と等級7を新設します。等級6はUA値0.46で、これはHEAT20のGⅡ基準相当です。等級7はUA値0.26で、これはHEAT20のGⅢ基準相当です。
HEAT20とは、2020年7月に設立された「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」の略称です。同法人は民間組織です。低環境負荷・安心安全・高品質な住宅・建築の実現のため、主として居住空間の温熱環境・エネルギー性能、建築耐久性の観点から、外皮技術をはじめとする設計・技術に関する調査研究・技術開発と普及定着を図ることを目的とすることを目的としています。下表はHEAT20が規定した地域別UA値です。

 

このHEAT20住宅シナリオ(21年6月版)は下記URLに詳細が掲載されています。
http://heat20.jp/grade/index.html

まとめ

住宅をはじめとする建築物の断熱に関する考え方は劇的に変化していきます。関係者によると、現行の断熱等性能等級4基準で適合義務化が実施された場合、それを下回る断熱等性能等級は不要になることから、基準に関する再構築が行われ、下表のように現行の等級4が新基準の等級1になるだろうと指摘しています。

また、国が定めた2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向け、2030年までに適合義務基準がさらに厳格化されることも考えられます。

しかしながら、HEAT20で規定されたUA値は既に海外の多くの国々で当たり前となっています。上表(野村総合研究所、海外における省エネ規制・基準の動向、2018年)のように6地域のHEAT20GⅡ(UA値0.46)基準相当は2013年前後には達成しており、省エネ基準適合義務化も2010年の時点で北半球の大半の国で実施されています。

そう考えると、日本もようやく先進諸国の省エネ基準に追いつきつつあるということができます。一見すると、難しい数値や難解な計算式があり、一般的な工務店には荷が重いと感じるかもしれませんが、取り組み事例は着実に増えています。

埼玉県の地場ビルダーである吉田建設(吉田雅人代表取締役)は、地産地消という考え方に基づき、構造材を多摩産の杉、桧無垢材仕様とし、内装や建具にも国産材無垢材をはじめとした自然素材をふんだんに用いる一方、耐震等級3、断熱性能もUA値0.31、Q値1.05、気密性(C値)0.3(実測値0.29)を実現した木造住宅を竣工しました。UA値はHEAT20のGⅡ基準を上回る断熱性能です。

ですから、意欲さえあれば新たな高みを目指せると思います。見方を変えると、2025年はすぐそこです。待ったなしで事業に落とし込んでいくことが求められます。

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