一般社団法人 ウッドマイルズフォーラム 藤原 敬
第6回 2050カーボンニュートラルに向けた施策と木材ビジネス
「地球環境時代の木材―消費者と生産者を結ぶ環境ビジネスの可能性」について5回にわたってお話してきました。今回は最終回です。昨年10月に管総理が「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロにする」といって、波紋がひろがりました。管総理は1年で総理の職を離れることとなり、コロナ対応の問題や説明不足など、批判されていますが、この、2050カーボンニュートラル宣言は、管総理の功績になるでしょう。(多分)
その後政府が公表した政策にもとづき、その大きなピクチャーの中で、木材利用がどうなっていくのか、紹介します。
「グリーン成長戦略」の中の木材利用
どのように、2050年までに温室効果ガス排出をゼロにするのか?この問に対して、政府は、6月「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」という文書を公表しました。内閣官房/経済産業省/内閣府/金融庁/総務省/外務省/文部科学省/農林水産省/国土交通省/環境省といった各省庁が連携して作成したものです。あくまで「成長戦略」!!
- 2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
- グリーン成長戦略の枠組み
- 分野横断的な主要な政策ツール
(1)予算(グリーンイノベーション基金/) /(2)税制 . /(3)金融 /(4)規制改革・標準化 /(5)国際連携 /(6)2050 年に向けた大学における取組の推進等 /(7)2025 年日本国際博覧会 /(8)グリーン成長に関する若手WG / - 重要分野における実行計画/
(1)洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー/(2)水素・燃料アンモニア産業 /(3)次世代熱エネルギー産業 /(4)原子力産業 /(5)自動車・蓄電池産業 /60(6)半導体・情報通信産業 /(7)船舶産業 /(8)物流・人流・土木インフラ産業 /(9)食料・農林水産業 /(10)航空機産業 /(11)カーボンリサイクル・マテリアル産業 /(12)住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業 /(13)資源循環関連産業 /(14)ライフスタイル関連産業
上の図が目次ですがアンダーラインの部分が木材利用に関係がある部分です。
「グリーン成長戦略」の「枠組み」の中でも「木材」はあるかな?
上の図は、「グリーン成長戦略」の枠組み(全体像)を示す図です。非電力と電力から排出される10億トン以上の排出量を、一生懸命2050年までに減らしていく!そこで、どうしても削減できなかった部分があったらどうするの?というのが、右下の青丸の部分です。「除去炭素」という技術で吸収したものをオフセット(相殺)する、というんですね。「除去技術」とは?そこに書いてあるのは、「植林、DACSSなど」。DACSSは大気から直接二酸化炭素を回収する今開発中の方法なんですが、今は使えない。なんのことか誰もわからないので、誰でも知っている、「植林」が、オフセットの対象に代表事例として書いてあります。そうです森林の吸収量、そして、そこにこれから増えてくる木材の話が入ってくるでしょう、ということなんですが、後述します。
「重要分野における実行計画」の中の木材は?
「重要分野における実行計画」というのが、各省庁が作成した本文ですね。 (9)食料、農林水産業、(12)住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業 という二つの部分に木材が記載されています
② CO2 吸収・固定
<現状と課題>
・・・森林から生産される木材は、炭素を長期的に貯蔵することに加えて、製造時等のエネルギー消費が比較的少ない資材であるとともに、エネルギー利用により化石燃料を代替することから、CO2 排出削減にも寄与する。・・・
<今後の方向>
また、木材利用については、建築物の木造化や暮らしの木質化を図るとともに、高層建築物等の木造化に資する木質建築部材の開発・工法の標準化等を図り、2040 年までに高層木造の技術の確立を目指すことに加え、改質リグニン・CNF 等の新素材の幅広い利用やそれに続く木質由来新素材等の開発・実用化等を進め、木材による炭素の長期・大量貯蔵を図る
i) 住宅・建築物
③ 炭素の貯蔵に貢献する木造建築物p.115
<今後の取組>
2021 年中に建築基準の合理化等を検討し、2022 年から所要の制度的措置を講じるとともに、先導的な設計・施工技術が導入される実用的で多様な用途の木造建築物等の整備に対する支援を引き続き行う。また、非住宅・中高層建築物の標準図面やテキスト等、設計に関する情報ポータルサイトを整備する取組及び非住宅・中高層建築物を担う設計者を育成する取組に対する支援を引き続き行う。また、木材利用の普及・拡大に向け、国での公共調達を推進する。これらにより、都市における木の豊かな建築空間を創出する。
(9)は農林水産省(林野庁)が書いているので木材利用を重要な方針だといっているのは分かるんですが、(12)の国交省が書いた部分にも「炭素の貯蔵に貢献する木造建築物」という節があり、各省庁でカーボンニュートラルのための、施策が進むようです。
森林林業基本計画の中の木材利用
上記のグリーン成長戦略と同時期に、5年に1度の新しい森林・林業基本計画が策定されました。カーボンニュートラルに向けての森林・林業基本計画少し見てみましょう。
上の表は5年前の計画と比較した新計画の木材利用量の見通しです。
建築用材の利用量は5年前の計画では2020年には20百万m3まで利用が進むと思ったけれど、19年実績では18百万m3で目標に達成せず。でも、25年には前の計画より利用量を増やしています。というけっこう木材利用では野心的(チャレンジング)な計画なんですね。
そして上の図、計画の枠組みでは「都市における第2の森林作り」という木材利用に関する「新しい柱」が増えました!!
「新たな基本計画のポイント」というページに解説がのっています。
〇都市等における「第2の森林」づくり
「中高層建築物や非住宅分野等での新たな木材需要の獲得を目指します。木材を利用することで、都市に炭素を貯蔵し温暖化防止に寄与します。」
これにもとづいて、木材利用に関する新しい施策が提案されてくるんでしょう。
来年度の予算要求なんかが始まっているようです。「非住宅建築物の木質化による利用者の生産性向上等木の効果を実証する取組を支援する取組、地域への専門家派遣等による技術的支援等の取組を支援する」新事業などが実現するかどうか?
注目ですね。
カーボンオフセットと木材の利用
さて、はじめに触れた、カーボンオフセットと木材利用の関係を少し。
「グリーン成長戦略」には 3.分野横断的な主要な政策ツール (4)規制改革・標準化
③ 市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)p,16という節があり、
「市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)は・・・、「J-クレジットや非化石証書等の炭素削減価値を有するクレジットに対する企業ニーズが高まっている情勢に鑑み、まずは、これらのクレジットに係る既存制度を見直し、自主的かつ市場ベースでのカーボンプライシングを促進すると」とされています。
どうしても、ゼロに削減できなかった企業が、最後の最後に、吸収のプロジェクトから削減分を購入してオフセットするというときに、だれでも分かり易い吸収削減量を提示するのがJクレジットです。
プロジェクトをJクレジットの上で評価をするために方法論が60ほど認定されています。 森林に関してはFO-001 森林経営活動と、FO-002 植林活動の2つが公表されています。
でも、「本社ビルを木造したら、どれだけクレジットになるの?」といった木材利用に関する方法論は公表されていません。
「なぜ、今一番大切な木材利用に関する方法論がないんですか?」とJクレジット事務局に問い合わせたら、「現在検討中です」(9月16日)との回答がありました。
木材利用のJクレジット方法論が早くできるといいですね。
地球環境時代の木材―新しい時代が始まりそうです。
執筆者のご紹介
1947年12月6日生まれ。
1972年5月林野庁入庁
林野庁(海外林業協力・林産物貿易・国有林業務など)、国際協力事業団、広島県林務部、独立行政法人森林総合研究所などに勤務
その後、社団法人全国木材組合連合会、全国木材協同組合連合会、林業経済研究所などに勤務
現在は、一般財団法人林業経済研究所フェロー研究員、一般社団法人ウッドマイルズフォーラム理事長、一般社団法人緑の循環認証会議評議委員および専門委員、一般社団法人全国木材組合連合会相談役など
2004年4月、東京大学において学位論文「持続可能な森林管理」の地球的なレジーム形成と木材貿易に関する研究」を執筆し博士(農学)取得。日本森林学会、森林計画学会、林業経済学会、環境経済・政策学会に所属
独自にwebサイト「持続可能な森林経営のための勉強部屋」を立ち上げ、地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える産官学民の情報交流広場を運営しており、1999年から毎月1回ニュースレターを配信。これまでに260回を数える(2021年4月現在)
http://jsfmf.net/index.html