一般社団法人 ウッドマイルズフォーラム 藤原 敬
第5回 ウッドマイルズって何?森林と消費者の距離を近づける運動
「地球環境時代の木材―消費者と生産者を結ぶ環境ビジネスの可能性」について4回にわたってお話してきました。今回は「消費者と生産者」という後段の部分に関して、一般社団法人ウッドマイルズフォーラムの仕事の蓄積を紹介します。
ウッドマイルズー使われる木材の輸送過程
木材輸送過程の環境負荷
我が国の木材の自給率は少し上がっていますが6割は輸入材(木材供給量及び木材自給率の推移)で世界中から木材を輸入しています。
図1は日本が多く木材輸入をしている輸出地域の概要です。
図1 代表的な輸入材の産地国からの輸送距離
ウッドマイルズ関連指標算出マニュアルver2016を基に作成
普通の新築住宅にたくさん使われている欧州材の製材や集成材の柱材は、産地から2万キロ以上輸送され日本の建築現場まで運ばれます。
図2はそれぞれの産地から建築現場まで運ばれる過程で発生する二酸化炭素の排出量です。後述するように、これをウッドマイレージCO2といいます。
図2 木材の輸送過程の二酸化炭素排出量
ウッドマイルズ関連指標算出マニュアルver2016を基に作成
実際に建築される住宅に利用される木材の輸送過程は様々ですが、この図は製材品で輸入され一般的な輸送形態を想定した仮の算出値です。輸入材と国産材排出量のおよその差が産出されています。
算出手法はウッドマイルズ関連指標算出マニュアとして、輸送経路に関する情報の入手具合に応じて定式化しています。
そして、これに基づいて家を一軒建設した場合木材の輸送過程だけで二酸化炭素の排出量し比較したのが、図3です。
図3 木造住宅の木材輸送過程二酸化炭素排出量
これによれば、すべて欧州材で一般住宅を建てた場合(というケースはありませんが、想定)と、すべて100キロメートル以内にある森林で産出した地域材で建てた場合(これは各地にあります:顔の見える木材での家作り)と比較すると、木材の輸送過程だけで、前者は後者より灯油で1600リットルを燃焼させたとにに発生する二酸化炭素量を、多く排出するすることになります。
以上は、一般社団法人ウッドマイルズフォーラム(以下フォーラムといいます)がホームページ上で訴求している、フォーラムの蓄積の一部です。
すこしWMFのそのほかに仕事も紹介します。
ウッドマイルズフォーラムの蓄積
「イギリスの消費運動家ティムラングがFood Miles(フードマイルズ)という概念を提唱し、食料の輸送距離をなるべく少なくするという運動を進めている」のを聞いて、木材の輸送過程のエネルギー消費を少なくし顔の見える経営を実現するため、2003年に建築関係者と森林関係者がウッドマイルズ研究会を作り、14年にフォーラムができました。
研究の過程で、森林と木材利用者との距離(ウッドマイルズ)に関連して、3つの指標を提唱しています。
図4 ウッドマイルズフォーラムが提唱する3つの関連指標
前段で紹介した「木造住宅の木材輸送過程二酸化炭素排出量」は上記②の輸送過程で排出される二酸化炭素の量です。
国産材を優先して使うというポリシーが、WTOの国際的な取り決め(内外無差別の原則の「内国民待遇」)に違反するが、環境に優しい物資を優先するというWTOにとっても難しい課題とも関係することになり、近くの山の木が環境に優しいとう理屈を提唱するウッドマイルズフォーラムの議論は、結構インパクトがありました(霞が関を走るウッドマイルズ(2004))。
また、「2050年まで温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにする」というカーボンニュートラルが提唱される中で、ますます大切な指標となる可能性があります。
流通把握度とは
そのほか大切な指標、③の木材のトレーサビリティの確保の度合いを示す「流通把握度」を説明します。
原則として、全ての木材の流通履歴が分からないとウッドマイルズ関連指標は算出できませんが、使用した木材の全ての流通履歴が分からない場合もあります(そういう場合がほとんど)。
実際の算出においては、例えば、この木材を出荷した原木市場は分かるが、それ以前の流通過程が分からないという場合、不明な部分については「おそらく県産材だから、山からはこのくらいの距離だろう」といった推測のもとに算出しています。
産地から最終消費地までの流通過程において、確実に分かっている部分の割合を算出し、木材のトレーサビリティ確保の度合いとして明示することで、トレーサビリティ確保の意識の向上を促す指標が「流通把握度」です。
「流通把握度」は、使用した木材の総量(総材積)に対して、経路毎に確実に分かっているウッドマイルズの比率を該当する材積に掛け合わせて算出される、流通把握材積が占める割合で示します。
消費者・需要者が流通の把握をする意味は、前段の違法伐採問題への対処、そして、伐採した後の森林がしっかり管理され本当に使う木材が循環資材なのかどうかということを確認するためなど・・・、購入する場合供給する側の努力を評価する重要なポイントです。
木材調達チェックブック
このように、ウッドマイルズフォーラムが提唱してきた、消費者と森林を近づける取り組みが、ますます重要になっています。
その蓄積をわかりやすく解説したのが、木材調達チェックブックです。
図5 木材調達チェックブックの5つのモノサシ
ウッドマイルズフォーラムが開発してきた指標だけでなく、森林認証だとかJASだとか、木材の環境・品質性能を示す社会的に認められたツールを、①産地、②流通、③省エネルギー、④基本的な品質、⑤長寿命という5つのモノサシに照らして、わかりやすく説明しています。ご関心のある方はネット上に掲載しているので、ぜひご覧ください。
木材調達チェックブック
今後の課題
これらの蓄積は、「カーボンニュートラル」などといわれるずっと前からすこしづつ蓄積されてきたものです。大きく時代が動いているので、時代の進展にあわせて改定をしていく必要もあります。
ぜひ皆さん、ウッドマイルズフォーラムの活動に関心をもっていただき、ご意見、支援をしていただけるとありがたいです。
執筆者のご紹介
1947年12月6日生まれ。
1972年5月林野庁入庁
林野庁(海外林業協力・林産物貿易・国有林業務など)、国際協力事業団、広島県林務部、独立行政法人森林総合研究所などに勤務
その後、社団法人全国木材組合連合会、全国木材協同組合連合会、林業経済研究所などに勤務
現在は、一般財団法人林業経済研究所フェロー研究員、一般社団法人ウッドマイルズフォーラム理事長、一般社団法人緑の循環認証会議評議委員および専門委員、一般社団法人全国木材組合連合会相談役など
2004年4月、東京大学において学位論文「持続可能な森林管理」の地球的なレジーム形成と木材貿易に関する研究」を執筆し博士(農学)取得。日本森林学会、森林計画学会、林業経済学会、環境経済・政策学会に所属
独自にwebサイト「持続可能な森林経営のための勉強部屋」を立ち上げ、地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える産官学民の情報交流広場を運営しており、1999年から毎月1回ニュースレターを配信。これまでに260回を数える(2021年4月現在)
http://jsfmf.net/index.html