全ての建築物変省エネ基準適合が義務付けされます
【国土交通省資料から】
住宅をはじめとする建築物の省エネルギー性能向上などを目的とし、関係する各種建築法制度等の改正を順次進めています。建築物の省エネ推進については、建築物省エネ法を軸に、より高位の省エネ水準を目指すうえで、建築基準法等の各種法制度との整合性を確保する必要が出てきます。
住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級の創設
【建築物省エネ法】が改正され、「住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級の創設」が行われました(下表は一般社団法人ロングライフ・ラボ様作成)。
ZEH水準の等級については、既に普及している基準が存在することから、当該基準を速やかに位置づけるとして、21年12月公布、22年4月施行で、断熱等対策等級5と一次エネルギー消費量等級6を創設。ZEH水準を上回る等級については基準のあり方等についての検討を踏まえ位置づけるとして、22年3月公布、22年10月施行で、新たに断熱等性能等級6と7(戸建住宅)を創設しています。
建物の省エネ性能についての建築士による説明義務
【建築物省エネ法】では21年4月から建物の省エネ性能について建築士から建築主への説明が義務化されました。この説明義務制度は既に開始されています。
建築士は設計する建物の省エネルギー基準の適否、適合しない場合の省エネ性能確保のための措置について、施主へ説明が必要になります。
対象となるのは21年4月1日以降の契約物件で、10㎡以上300㎡未満の住宅・建築物の新築・増改築となります。
建築主への情報提供では、建築士は住宅の省エネの必要性、効果の情報を提供します。建築主の意思確認では、省エネ基準の評価・説明についての意思を確認し、建築主が説明不要とした場合は意思表明書面の書面を作成します。建物の省エネ性能評価では、建築士は建物の省エネ性能を計算し、省エネ基準の適否を行います。評価結果を建築主へ説明するには、省エネ基準の適否及び不適合の場合は省エネ性能確保のための措置を書面で説明します。
【国土交通省資料から】
住宅の省エネ改修に対する低利融資制度
22年9月施行で【住宅金融支援機構法】が改正され、住宅金融支援機構に住宅の省エネ改修に対する低利融資制度が創設されました。住宅金融支援機構による個人向け住宅の省エネ・再エネに資するリフォームに利用可能な低利融資制度(グリーンリフォームローン)で、融資額は最大500万円です。
すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け
2022年6月に公布された【脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー省性性能の向上に関する法律の一部を改正する法律】に基づき、建築物省エネ法が改正され、原則すべての建築物について省エネ基準への適合が義務付けられます。2025年4月の施行を予定しています。
【国土交通省資料から】
建築物の省エネ基準とは、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準であり、一次エネルギー消費量基準と外皮基準からなります。新たに義務化対象となる建築物については、現行の省エネ基準が適用されます。
現状は大規模非住宅(2000平方㍍以上)が17年4月から、中規模非住宅(300平方㍍以上2000平方㍍未満)が21年4月から省エネ基準適合義務の対象で、大規模及び中規模住宅は届出義務、小規模建築は非住宅、住宅とも説明義務となっていますが、改正後は原則すべての建築物が省エネ基準適合義務の対象となります。
省エネ基準への適合性審査は建築確認手続きのなかで行われます。省エネ基準へ適合しない場合や必要な手続き・書面の整備等を怠った場合は、確認済証や検査済証が発行されず、着工、使用開始が遅延する恐れがあります。
省エネ基準への適合審査の流れは次の通りです。
建築主は、建築主事または指定確認検査機関に建築確認申請を提出します。これは建築基準法に基づく従来通りの手続きですが、省エネ基準適合性判定が追加されます。
この手続きは、建築主が所管行政庁または登録省エネ判定機関に対し「省エネ性能確保計画」を提出、所管行政庁または登録省エネ判定機関で省エネ適判が行われ、適合すれば「適合判定通知書」が建築主事または指定確認検査機関に送付されます。この手続きを経て建築主事または指定確認検査機関は確認審査とともに省エネ基準適合確認を行い、建築主が確認済証として受領し着工となります。
建築基準法に基づき建築主は竣工後、建築主事または指定確認検査機関に対し完了検査申請をしますが、ここでも省エネ基準適合の検査が行われ、建築主は建築主事または指定確認検査機関による検査済証を受領後、住宅として使用することになります。
なお、仕様基準を用いるなど審査が比較的容易な場合は省エネ適合性判定を要しないこともあります。
建築確認審査の対象となる建築物の規模の見直し(4号特例の見直し)
2022年6月に公布された【脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー省性性能の向上に関する法律の一部を改正する法律】に基づき、25年4月施行で、省エネ基準の適合が義務化されますが、これに合わせて、25年4月施行で木造戸建住宅を建築する場合の建築確認手続きも見直されます。
【国土交通省資料から】
4号特例とは審査省略制度のことで、建築基準法第6条の4に基づき、建築確認の対象となる木造住宅等200平方㍍以下の小規模建築物(建築基準法第6条第1項第4号に該当する建築物)において、建築士が設計を行う場合には構造関係規定等の審査が省略されるものです。200平方㍍以下の木造2階建て、木造平屋建てが4号建築物として、審査省略制度の対象となります。ただし、都市計画区域内に建築する際には建築確認・検査が必要です。
改正後、4号建築物は「新2号建築物」、「新3号建築物」に分かれます。
「新2号建築物」は木造2階建て及び木造平屋建て(延床面積200平方㍍超)で、すべての地域で建築確認・検査(大規模な修繕・模様替えを含む)を必要とし、審査省略制度の対象外となります。確認申請の際に確認申請書・図書に加え、新たに構造関係規定等図書、省エネ関連図書の提出が必要となります。
「新3号建築物」は木造平屋建て(延床面積200平方㍍以下)で、審査省略制度の対象となります。ただし、都市計画区域内に建築する際は建築確認、検査が必要となります。提出書類は確認申請書・図書で、現行と同様に一部図書省略が継続されます。
23年秋ごろに改正される建築基準法施行規則において、申請に必要な図書の種類と明示すべき事項を規定する予定です。
ZEH水準等の木造住宅・建築物を対象とした壁・柱の構造基準の見直し
この改正は木造建築物における省エネ化等を推進するにあたり、ZEH水準等の木造建築物の普及を促進することを踏まえた壁量等の構造基準見直しを行うものです。2023年秋ごろの法律公布、2025年4月に施行予定です。
ZEH水準の建築物となると、屋根などに太陽光発電のためのパネルを設置する必要がありますが、建築物が重量化し壁面への垂直荷重が増す傾向にあることを踏まえ、建築基準法施行令等の改正を行い、必要な壁量等の基準(ZEH4rc壁量等基準)を位置づけることを予定しています。
ZEH水準等の建築物が重量化する傾向にあることを踏まえ、同施行令等の公布までの間も、施行後に必要となる壁量等を確保しておこうとする建築主等がZEH水準等の建築物を建築する際の参考資料として、ZEH壁量等基準(案)の概要も公表されました。
改正は、ZEH水準等の省エネ性能の高い木造住宅・建築物が対象となります。法律の改正では壁・柱の構造基準、具体的には壁量計算・柱の小径)が見直されます。
壁の構造基準(壁量計算)の見直しについて(令第46条4項等関連)では下記の3つの方法が示されています。
方法① 壁量計算における必要な壁量の基準について、建築物の荷重の実態に応じて計算により求める精緻な方法を新たに位置付け。※仕様等の組合せに応じて必要な壁量が簡易に把握できる試算例(早見表)を活用できるようにする予定です。方法② 簡易に必要な壁量を確認する方法(現行の壁量の確認方法)にZEH水準等の建築物に対応する基準を追加。方法③ 構造計算(許容応力度計算 等)により安全性を確認する場合は壁量計算を省略可能。
柱の構造基準(柱の小径)の見直については令第43条第1項関連で下記の方法が示されています。
柱の小径の確認について、新たにZEH水準等の建築物に対応する基準を追加。構造計算(柱の座屈検討)により安全性を確認する場合は、柱の小径の確認を省略可能。
構造規制の合理化・二級建築士の業務範囲の見直し
高度な構造計算までは求めない簡易な構造計算(許容応力度計算)で建築できる範囲を高さ16㍍以下まで拡大するとともに、構造計算が必要となる規模を延床面積300平方㍍超に拡大します。
あわせて二級建築士の業務範囲を階数3階以下かつ高さ16㍍以下に変更します。いずれも2025年4月施行予定です。
木造建築物の構造計算については現在、下表左のように規定されています。
【国土交通省資料から】
階数1~2・延床面積500平方㍍以下・高さ13㍍以下(軒高9㍍以下)は仕様規定。階数1~2・延床面積500平方㍍以上・高さ13㍍以下(軒高9㍍以下)は簡易な構造計算・許容応力度計算。階数3及び4以上・高さ13㍍以下(軒高9㍍以下)は延床面積にかかわらず簡易な構造計算・許容応力度計算。高さ13㍍超~60㍍以下(軒高9㍍超)は階数・延床面積にかかわらず高度な構造計算(許容応力度計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算)。高さ60㍍超は階数・延床面積にかかわらず時刻歴応答解析が必要でした。
この規定は上表右のように変更されます。
階数1~2・高さ16㍍以下・延床面積300平方㍍以下は仕様規定。階数1~2、3・高さ16㍍以下・延床面積300平方㍍超は簡易な構造計算・許容応力度計算。階数4以上・高さ16㍍以下は延床面積にかかわらず高度な構造計算(許容応力度計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算)。高さ16㍍超60㍍以下は階数・延床面積にかかわらず高度な構造計算(許容応力度計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算)。高さ60㍍超は階数・延床面積にかかわらず時刻歴応答解析に改正されます。
改正により多くの木造住宅に当てはまる木造建築物が階数1~2、16㍍以下、延床面積300平方㍍以下ついては仕様規定で対応できる高さが13㍍から16㍍に緩和されています。
一方、延床面積については仕様規定で対応できる面積が500平方㍍から300平方㍍に制限され、300平方㍍超は簡易な構造計算が必要となります。また、高さ16㍍以下であっても階数4以上は高度な構造計算が必要になります。特に非住宅木造建築の多くは延床面積300平方㍍超となることから何らかの構造計算が求められます。
建築士登録状況(令和4年4月1日時点)は一級建築士事務所(法人、個人)7万3036、二級建築士事務所(同)2万4700、木造建築士事務所(同)185、合計9万7921、建築士数は合計117万1334人、うち一級建築士37万5084人、二級建築士77万7670人、木造建築士1万8580人)となっています。2025年4月施行予定の建築士法改正では、二級建築士の業務範囲を階数3以下かつ高さ16㍍以下に変更されます。
木造建築における現行の二級建築士で可能な業務範囲(設計及び工事監理、【建築士法】第3条・第3条の2・第3条の3)は、原則として高さ13㍍以下(軒高9㍍以下)、階数1~2、延床面積300平方㍍以下です。これ以上の階数、延床面積のついても高さ13㍍以下(軒高9㍍以下)の一部については二級建築士でも対応できるようになっています。
木造防火規制の合理化
国土交通省では防火規制について2024年4月施行予定で複数の改正に言及しています。特に木造建築の防火規制は、地域、用途、規模等にもよりますが、これまでも規制緩和が進められています。引き続き中大規模木造建築において木質部材を積極的に使っていくことを念頭に、燃えしろ設計法、分棟による別棟扱い等の考え方を取り入れた規制緩和を計画しています。
3000平方㍍超の大規模建築物について、構造部材の木材をそのまま見せる「あらわし」による設計が可能な新たな構造方法が導入されます。
現行は壁、柱等を耐火構造とするか、3000平方㍍ごとに耐火構造体で区画することが求められていましたが、改正後は、火災時に周囲に大規模な危害が及ぶことを防止でき、木材の「あらわし」による設計が可能な構造方法を導入します。燃えしろ設計法+防火区画の強化等により周囲への延焼を抑制するというものです。
【国土交通省資料から】
耐火性能が要求される大規模建築物においても壁・床で防火上区画された範囲内で部分的な木造化を可能とします。
現行は耐火性能が要求される大規模建築物において、壁・床等のすべての構造部材を例外なく耐火構造とすることが要求されていますが、改正後は防火上・避難上、支障がない範囲で部分的な木造化を可能とします。
防火上分棟的に区画された高層・低層部分をそれぞれ防火規定上の分棟として扱うことで、低層部分の木造化を可能とします。
現行は低層部についても、高層部と一体的に防火規制を適用し、建築物全体に耐火性能を要求していますが、改正後は高い耐火性能の壁等や離隔距離を有する渡り廊下で分棟的に区画された高層部・低層部をそれぞれ防火規定上の別棟として扱うことで、低層部分の木造化を可能とします。
他の部分と防火壁で区画された耐火構造等の部分には、防火壁の設置は要さないこととします。
現行は木造部分と一体で耐火構造または準耐火構造の部分を計画する場合、耐火・準耐火構造部分にも防火壁の設置が求められていますが、改正後は他の部分と防火壁で区画された1000平方㍍超の耐火・準耐火構造部分には、防火壁の設置は必要なくなります。
省エネ改修や再エネ設備の導入に支障となる高さ制限等の合理化
既存の建築物を対象に、屋外に面する部分での省エネ改修等の工事により、高さ制限や容積率、建蔽率制限を超えることが構造上やむを得ない場合の特例許可制度を創設します。2023年4月施行予定です。
採光規定の見直し
住宅の居室に必要な採光に有効な開口面積について、引き続き原則1/7以上を求めつつ、一定の条件下で1/10以上まで緩和します。2023年4月施行予定です。