三ツ星 建築の旅シリーズ Part2 第6回「フランスの歩き方4~バルセロナへ~」


泉幸甫建築研究所 建築家  泉幸甫

6-フランスの歩き方4~バルセロナへ~

目次

バルセロナ

地中海に面したフランスの東端、ニースから車で左に地中海を見ながら西へ、西へ。
前回はサン・ギレム・ル・デゼール修道院のあるギレムまでたどり着いた。
その先をちょっと行くと、いつの間にかスペインとの国境近くまで来ていた。
じゃー、ここまで来たんだから、ついでにバルセロナもちょっと見ようじゃないかと、スペインに寄り道することになった。
ヨーロッパは国境の検問がほとんどないから、また車での旅行だから、気ままにコースを選択することができる。

バルセロナと言えばガウディ。

この写真は旅した30年前のサクラダ・ファミリアで、まだ全貌を見るには程遠い状態だった。その後の建設のスピードは凄まじい。

同行者はガウディが好きだという人、ちょっとね、という人、様々。
この旅は30年以上前の1993年だったが、まだサクラダ・ファミリアの工事はそんなに進んでいなかった。
あの時からの約30年の間に、ものすごい勢いでサクラダ・ファミリアの工事は進んだ。
完成予定が2026年と言われていたが、コロナ禍で延期になるのではと思っていたが、でもやはり完成は再来年の2026年!とのこと。
もっとも細部はまだやり残した工事があるらしく、その後も続くとか。

サクラダ・ファミリアを知ったのは大学生の頃。
研究室にあった写真集で見て、そのデザインの迫力に頭がくらーっとなったことを覚えている。
その写真集は1960年代のもので、この旅行で見た時より、もっと工事は進んでいなく、ほんの一部を除き、地上に近いところで工事が行われていた。それでも、その頃のサクラダ・ファミリアには人を根源から揺さぶる力があった。
また、完成まであと何世紀かかるか分らないと言われていた。
それがこのところ急ピッチで工事が進んだのは、観光客による(建設費に使われる)拝観料収入の増大、3D構造解析、3Dプリンターによるモデリングが可能になったこと、超高強度コンクリートなどの先端技術の導入によると言われている。

世紀の、というより人類のなしえた偉業の一つに違いなく、早く完成を見たいものだが、ここまで来てしまうともうそんなに急がなくても、という気がしないでもない。
技術の進歩が美しいものを可能にするとは言えない。
むしろ逆な場合が多い。

ガウディ―が生存していた時に作られた「生誕の門」の部分は素晴らしいが、何やら最近作った部分は段々と緻密さに欠けているようだ。
ガウディが生存時に、神は完成をお急ぎにならない、と言ったとか。



ガウディ―が存命中に作った部分

バルセロナで感銘を受けたのはサクラダ・ファミリアもあったが、もう一つ、古い建物のリノベーションがうまい!と感心したこと。
この旅行から30年たち、いまや日本もリノベ流行り。
石造は寿命が長いからヨーロッパではリノベして使い続けることはわかっていたが、それは単に傷んだところを修繕して使い続けるのでなく、既存をリソースとして扱い、以前よりさらに良くなるようにしていることだ。
創作とも言っていいくらいの関わり方を建築家はしている。



バルセロナのリノベ1



バルセロナのリノベ1 華奢なアーチの付いた柱と周囲のどっしりした壁の対比がうまい。



バルセロナのリノベ2 窓に仕込まれた煉瓦の壁と窓



バルセロナのリノベ3 古い建物にガラスのボックス

ここでまた本の紹介。
最近日本でもリノベが増えてきた。
2023年時点で6502万戸のストックのうち、なんとその13.8%の900万戸が空き屋といったことで、もう新築をするより、空き家をどう利用するかの方にシフトしつつある。
当然、建築家も新築の仕事がなくなり、リノベに走らざるを得なくなっている。
そのような状況はあるが、スペインのリノベを見ていると、既存の建築をスタート地点と考えることで、さらにより豊かな建築を作れる可能性があることを教えてくれた。

そこで、またそんなことを書いた良い本の紹介です。
時がつくる建築: リノべーションの西洋建築史
リノベーションからみる西洋建築史

歴史家がリノベについて書くとどういうことになるか、まずはそこに興味があったが、歴史家が書くとよりリノベの意義が見えてくる。
建築家のこれからの仕事を位置づけてくれる。

執筆者のご紹介

泉 幸甫(いずみ こうすけ)

物はそれ自体で存在するのではない。それを取り巻く物たちとの関係性によって、物はいかようにも変化する。建築を構成するさまざまな物も同じように、それだけで存在するのではなく、その関係性によって、そのものの見え方、意味、機能は変化する。
だから、建築設計という行為は物自体を設計するのではなく、さまざまな物の関係性を設計すると言ってもいい。
そして、その関係性が自然で、バランスがよく、適切さを追求することができたときに、いい建物が生まれ、さらに建物の品性を生む。
しかし、それには決定的答えがあるわけではない。際限のない、追及があるのみ。
そんなことを思いながら設計という仕事を続けています。
公式WEBサイト 泉幸甫建築研究所

略歴

  • 1947年、熊本県生まれ
  • 1973年、日本大学大学院修士課程修了、千葉大学大学院博士課程を修了し博士(工学)
日本大学助手を経てアトリエRに勤務。1977年、泉幸甫建築研究所を設立、住宅、非住宅双方の設計に取り組む。1983年建築家集団「家づくりの会」設立メンバー、1989年から1997年まで代表を務める。2009年、次世代を担う若手建築家育成に向けて家づくりの会で「家づくり学校」を開設、校長として現在も育成活動に取り組んでいる。

1994~2007年、日本大学非常勤講師、2004~2006年、東京都立大学非常勤講師、2008年から日本大学研究所教授、2019年からは日本大学客員教授。2008年には2013年~16年、NPO木の建築フォラムが主催する「木の建築賞」審査委員長も歴任した。

主な受賞歴は「平塚の家」で1987年神奈川県建築コンクール優秀賞受賞、「Apartment 傳(でん)」で1999年東京建築賞最優秀賞受賞、2000年に日本仕上学会の学会作品賞・材料設計の追求に対する10周年記念賞、「Apartment 鶉(じゅん)」で2004年日本建築学会作品選奨受賞、「草加せんべいの庭」で2009年草加市町並み景観賞受賞、「桑名の家」で2012年三重県建築賞田村賞受賞。2014年には校長を務める「家づくり学校」が日本建築学会教育賞を受賞している。

主な著書は、作品集「建築家の心象風景1 泉幸甫」(風土社)、建築家が作る理想のマンション(講談社)、共著「実践的 家づくり学校 自分だけの武器を持て」(彰国社)、共著「日本の住宅をデザインする方法」(x-knowledge)、共著「住宅作家になるためのノート」(彰国社)。2021年2月には大作「住宅設計の考え方」(彰国社)を発刊、同書の発刊と合わせ、昨年度から「住宅設計の考え方」を読み解くと題し、連続講座を開催、今年度も5月から第二期として全7回の講座が開催される。

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