[天然木をふんだんに使用した野趣あふれるオンリーワンの室内空間]
床(ゆか)
日本の住宅における複合フローリングの歴史は決して長くなく、数十年前ほどに建材メーカーが開発したのが始まりです。欧米の住宅床材は温帯産広葉樹の無垢フローリングを主体とし、近年は様々な複合フローリングが登場していますが、日本との決定的な違いは、日本が靴を脱ぐ文化であるのに対し、欧米は土足のまま居室に入ることが一般的だということです。当然ながら、床材の発展の仕方も大きく異なります。
戦後の日本の住宅の床の歴史を振り返ると、フローリングの登場はさほど昔のことではなく、高度成長期を経て本格的に開発が進み始めました。それ以前、住宅の床は畳、板敷(無垢の板)が大半でした。
戦後復興から高度成長期を迎え、最も重要な住宅政策は、住宅の数的充足であり、住宅及び住宅部材の工業化が一気に加速します。和室を基本とする工業化しにくい伝統構法が廃れ、大壁工法と洋風化住宅が急拡大していきます。
床材も畳や板敷から、洋風化に合わせて多様化が進み、カーペット(絨毯)、クッションフロアなど様々な床材が登場します。しかしながら、カーペットに住みついたダニやアレルギーなどによる健康被害が大問題になりました。そうした問題への答えとして複合フローリングが登場するのです。
合板、特に節が少なく平滑性が高い熱帯産合板を基材とし、表面化粧に突板を貼るもので、住宅の洋風化需要と相まって急速に普及していきました。今日では熱帯産合板代替としてMDF、針葉樹合板、パーティクルボードなど様々な木質基材が使われ、非木質基材も登場しています。また、表面化粧も、突板代替として、シート貼り、直接印刷などの新しい製品も開発されています。複合フローリング側面の実加工技術も進歩しており、釘やねじを使用せずに施工できる製品も出ています。
大手建材メーカーを中心に、工業製品としてのフローリング開発が進み、現在、複合フローリングは床材市場で最も大きな舎を占めるまでに至っています。建材メーカーの業容拡大という点でもフローリングは大きな貢献をしています。複合フローリングを通じ、居室内を三次元でトータルコーディネートするための最初の部位として、居室全体をコーディネートという考え方が広がりました。
建築物の床材は最も多様化が進んでいる分野です。市場シェアの大きい複合フローリングでも、基材は合板、MDF、パーティクルボードなど多様化しており、表面化粧も単板突板、塩ビ系、オレフィンシート系、印刷と多様です。特に劇的な印刷に関する技術革新が進み、木材のような手触り感のある浮造り加工、大理石や金属調などの質感を再現した多様な意匠も登場しています。
床は木質系のほか、プラスチック、リノリウム、カーペット、タイル、石材、クッションフロア、塩ビシート、和室床で使用される畳をはじめ、コルク、竹、籐、麻、ココヤシなどの植物由来の天然素材もあります。建築物内のどのような床部位で使用するのかを考え、適材適所で用いることが大切です。
体育館や武道場の場合、耐久性は元より、競技を行う上での全体的な床面の見栄えも重要です。また、土足歩行を前提とする商業建築床材は耐摩耗性能が重視されます。医療施設や福祉施設では汚れを簡単に除去することができる床材を必要とします。
[体育館の床は耐久性、耐摩耗性、ささくれがないことなど、特殊な要件を必要とします。テレビ中継で使われるような体育館では見栄えも重要です]
建材大手メーカーを中心に構成される複合フローリング工業会は年間2000万坪前後の複合フローリングを製造販売しています。一方、全国の国産材針葉樹製品製造事業所では、製材の付加価値向上に向け、無垢床材や腰板の生産が活発に行われています。また、温帯産広葉樹無垢フローリングは、国内生産のほか、資源国であるアジア、北米、欧州などからも輸入されています。フローリングはJASで細かく規定されています。
*単層フローリング
フローリングに関するJASでフローリングボード、フローリングブロック、モザイクパーケットに分類されます。フローリングボードは通常、無垢の木材による床板を指しますが、集成材を使ったものも含まれます。フローリングブロックは、無垢の板を2枚以上並べて接合し、側面加工などを施した正方形のブロックです。モザイクパーケットは長辺が22.5センチ以下のひき板または単板の小片を2個以上並べて紙や針金などで組み合わせたものです。
[造作に無垢の木をふんだんに使用しました、クボデラ㈱施工]
*複合フローリング
フローリングに関するJASで合板、集成材、その他など、フローリングの基材によって複合一種、二種、三種に分類されます。挽き板フローリングは表面化粧材2㍉程度の厚さがある天然材を使用します。突板フローリングは表面化粧材に0.3〜1ミリ程度の突板を使用します。シートフローリングは木目が印刷されたシートを化粧材として使用します。
複合フローリングは工業製品ですから、無垢フローリングに比べ価格競争力や供給安定性に優れ、職人技術不要で、多様な床面に施工できます。また、品質が安定しており無垢フローリングの反り、曲がり、割れといった問題が起きにくく、表面に耐摩耗性向上等の特殊加工処理を施すことで傷がつきにくく、メンテナンスが容易です。用途や機能、価格帯に合わせ多くの商品をそろえている点も強みです。
無垢フローリングに比べかなり割安ですが、本物の木の質感という点では見劣りします。
*無垢フローリング
無垢フローリングは無垢の木材で作られたフローリングを指します。無垢の木材とは、集成・積層などの加工を施していない木そのものを指すほか、縦継ぎされたもの、大きなパーツを組み合わせたものも無垢と呼ばれます(=単層フローリング参照)。無垢フローリングとは、スライスや鋸挽きした板材を重ね合わせて複層としたものではなく、断面から見て一つの木材から出来ているものです。
天然素材である木材を原材料としており、複合フローリングでは出すことができない本物感、本物の風格があります。半面、本物の木である以上、品質にばらつきがあり、反りや曲がりも発生しやすいです。また、工業製品ではありませんから供給安定性は高くありません。
北米の住宅では圧倒的に無垢フローリングが使用されます。温帯産広葉樹製材のグレードにはフローリング用の格付けもあります。北米の住宅施主は無垢フローリングの経年変化を楽しみ、表面に傷が増えたときは取り外し、板材の表面を削り、磨き加工することで、きれいな意匠が戻ります。数百年も経過した北米の住宅では、何度もフローリングのメンテナンスが行われています。
[マレーシアの複合フローリングメーカーショールーム]
[国産材をふんだんに使用した内装、中央の丸柱が象徴的です]
*ユニフローリング
無垢フローリングには、UNI(ユニ)とOPC(ワンピース)があります。ユニフローリングは、製造工程の段階で様々な長さの原材料となる板を木柄や色合いなどの特徴が均一になるように、数枚の短い板材を、1820ミリ長など一定の長さにつなぎ合わせたフローリング材を指します。
短い板材をつなぎ合わせる工程で、節や割れといった原材料の欠点を除去できます。また、つなぐことで反り、曲がりは起きにくくなります。短尺材をつないだ製品ですから、1枚ものと比べ割安です。希少性の高い温帯産広葉樹原材料のなかには、1枚板が極めて高価なものとなるため、ユニで対応します。
*OPCフローリング
OPC(ワンピース)とは、厚み、長さともに、つなぎ目のない一枚板のフローリング材です。一定の長さに加工された定尺サイズが一般的ですが、長さを揃えていない乱尺サイズもあります。UNI同様、節や割れなどのキズのある部分を取り除くことができ木材を有効に利用できます。UNI材との違いは、材が短く板の枚数が多いので大工の貼り手間が増えます。
無垢フローリングの代表はOPCですが、欠点のない温帯産広葉樹良材などは、ユニと比べかなり高値になります。もちろん、ユニ以上に本物の木材の質感を味わえ、適切なメンテナンスを行うことで、経年変化を楽しむことができます。国産材針葉樹(杉、桧、カラマツなど)でもOPCフローリングが増えてきました。広葉樹に比べOPCには対応しやすいと思います。杉などの針葉樹は柔らかく、床材として使用する場合、傷の問題がネックですが、原材料の段階で圧縮や圧密加工することで耐摩耗性能を高める技術もあります。
[和洋の長所を生かした内装、クボデラ㈱施工]
[杉300ミリ角を本実加工した床面]