「木材と快適性」6回シリーズの最終回を迎えました。過去の5回においては、1)「人と木材の関係」2)「快適性の考え方」3)「木材と嗅覚」、4)「木材と触覚」、5)「木材と視覚」について紹介してきました。第6回目においては、「木の生活」の楽しみ方を提案します。

(1)木材がもたらす快適性増進効果
木材がもたらす生理的リラックス効果に関しては、まだまだ、十分とは言えませんが、本シリーズを通して、データ蓄積が進んでいることをご理解頂けたことと存じます。なお、これらのデータはすべて日本からの報告であることも注目に値します。
第1回で示したように、人の体は自然体応用にできていますので、木材に触れると「勝手に」「自動的に」リラックスしてしまうのです。今のストレス社会において、この木材が持つアドバンテージを上手に利用することが求められています。
一方、第2回で述べたように、木材がもたらす快適性は、プラスαを目的とする「能動的快適性」であって、マイナスの除去を目的とする「受動的快適性」とは異なるという点に焦点を当てる必要があります。
(2)木の生活の楽しみ方
メディア取材で、しばしば質問されるのが「森林セラピーを楽しむための3箇条」「木材セラピーを楽しむための3箇条」です。
私の回答は「ありません」です。
「受動的快適性」においては、具体的な3箇条を数値で示すことができます。例えば、私が小学校5年生のときに東京オリンピックが開催されたのですが、当時の日本は、大気汚染が深刻な状況でした。TV画面の片隅に、本日の「窒素酸化物濃度○○ppb」などと表示され、「外出を控えましょう」などと放送されていたことを思い出します。この場合は、目標「○○ppb」などと数値表現することができます。温度においても同様です。マイナスの除去ですので、上記したように数値表現が可能で、「3箇条」等を具体的に示すことができるのです。
一方、困るのが「森林セラピー」「木材セラピー」等の「能動的快適性」です。プラスαを目的とするため、個人差が大きく、具体的な数値設定ができません。
そこで、これまでに蓄積してきたエビデンスから考察することにしました。結論から申し上げると「自分の好きな木材を選択すること」です。例えば、自然由来の刺激がもたらす影響を調べると、「好き」「どちらでもない」「(少ないながらも)嫌い」と評価されることが多く、個人差が見られます。その時の「主観的評価と生理的リラックス効果」の関係を調べると、多くの場合、「好き」な人は生理的にリラックスし、「どちらでもない」人は生理的にほとんど変化しないことがわかりました。自分で選択した自然がリラックス感をもたらすのです。

木のテーブル(写真1)
私は自宅で「木のテーブル」を使っています(写真1)。ケヤキの天板とサクラ空洞木の脚からできています。20年程度、毎日、使っていますが、とても快適で、気に入っています。

木材会館(写真2)
木の香りを抽出した木材精油、木製品から木造建築(写真2)まで、木材は身の回りにたくさんあります。受動ではなく、能動的に、自分好みの木材を選択し、生理的にリラックスした快適な「木の生活」をお楽しみ頂きたいと思います。
イラスト:佐藤智 ((株) 宮坂印刷)